ナカニシ自動車産業リサーチ・中西孝樹氏による本誌『ベストカー』の月イチ連載「自動車業界一流分析」。クルマにまつわる経済事象をわかりやすく解説すると好評だ。
第十二回目となる今回は、大詰めを迎えているとされるルノー・日産の資本関係見直しについて。1999年の資本支援以降、現在はルノーが43%日産に出資、日産が15%をルノーへ出資している現在の出資構造は、果たして!!?
※本稿は2022年9月のものです
文/中西孝樹(ナカニシ自動車産業リサーチ)、写真/NISSAN
初出:『ベストカー』2022年10月26日号
■11月8日・9日に要注目
来たる11月8日と9日は自動車業界関係者が強く注目する日です。
8日は仏ルノーが投資家向け説明会を開き、9日は日産が上半期決算発表を行い、内田社長がメディアやアナリストの前に登場する日なのです。
23年間続いた日産とルノーのアライアンスがいよいよ次のチャプターに入る公算が高まっています。
ルノーが43%日産に出資し、日産が15%を同社へ出資する出資構造が見直される公算大です。
ルノーが大幅に出資を削減し、両社が15%ずつを持ち合う対等出資へリバランスするという見方が大勢を占めています。日産はルノーに支配される時代に終止符を打つことになります。それは再度、激変の自動車産業に対してひとり立ちすることを意味します。
1998年にドイツのダイムラーと米国のクライスラーが「世紀の合併」と呼ばれた経営統合を実施します。これに端を発し、国境を越えた狂乱的な自動車メーカー合従連衡ブームが訪れました。
もともとフランスの国有企業として政府に保護されてきたルノーでしたが、民営化に向かうなかでの生き残り戦略として、自社のグローバル化を決断します。
1999年に瀕死状態の日産を買収し、巨額の出資を実施したのです。
支配権を握ったルノーは、子会社となった日産を同社の世界戦略に組み入れるべく、「再建請負人」として送り込んだのがゴーン被告人であったわけです。
■提携の意味が薄れてきた
それから23年が経ち、自動車産業を取り巻く情勢は激変しました。
ルノーは欧州とユーラシア(ロシア・アジアを中心とする経済圏)の2地域に経営を集中させる地域戦略に転換し、そして、ウクライナ戦争でロシアから撤退を強いられます。
日産は中国、北米、日本に中核を置くわけで、ルノーから見て、もはや戦略を全体で一元化することの意味が薄れてきたのです。
ルノーのルカ・デメオCEOは、日産との経営統合にはこだわらず、欧州市場と電気自動車(EV)に事業を集中させる新戦略を検討してきました。その新戦略の詳細発表日が11月8日なのです。
そのなかで、EV生産・販売の専門会社(EV新会社)を設立し、日産株の一部売却を定める何らかの方向性が示される公算が大なのです。
8月26日号でルノーと日産のアライアンスの経緯について詳しく解説しました(編集部註:『ベストカーWeb』では2022年8月1日に配信。Yahooニュースをご覧の方は本記事下の「関連記事」をご参照ください)。
(「日産は日産であり続けられるのか? ついに公開されたルノーとのアライアンスの内容とこれからについて」を参照)
ルノーは日産を支配できる立場にいましたが、ゴーンは「対等の精神」で運用する手段を選択します。その象徴が、子会社の日産が親会社のルノーに15%出資する持ち合い構造の構築だったのです。
フランスの国内法では、子会社は親会社の議決権が持てません。日産はそれを承知の上で出資を決定したわけで、メディアによくある「不平等」という表現は正しくないのです。
その後、2015年のアライアンス基本契約(RAMA)の改定によって、ルノーは日産経営への不干渉が定められ、アライアンスは「対等のガバナンス」での運用に進化します。
それが、今回の経営改革で「対等の出資」に新たな進化を遂げるわけです。
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