ナカニシ自動車産業リサーチ・中西孝樹氏による本誌『ベストカー』の月イチ連載「自動車業界一流分析」。クルマにまつわる経済事象をわかりやすく解説すると好評だ。
第十一回目となる今回は、3年ぶりに開催された米国・デトロイトモーターショーで垣間見えたトヨタ、そして日本の「現在地」について。本当に大丈夫…!!?
※本稿は2022年9月のものです
文/中西孝樹(ナカニシ自動車産業リサーチ)、写真/NISSAN
初出:『ベストカー』2022年10月26日号
■米自動車産業と政治を色濃く反映 デトロイトショーの変遷
世界のメジャーなモーターショーである北米国際オートショー、いわゆるデトロイトモーターショーが3年ぶりに開催されました。
米国のビッグ3(現在はデトロイトの頭文字をとって「D3」と呼ばれる)の本拠地デトロイトで開催されるこの自動車ショーは、以前から国家威信をかけた自動車産業を守る政治色が濃く、米国自動車産業の時代を映す鏡とも言えます。
1990年代は日米貿易摩擦による日本車叩きの舞台であり、近年では2009年に経営破綻したGMとクライスラーの再生を目指し、当時のオバマ政権の環境を基軸とした経済政策「グリーンディール」のプロパガンダを演出する場でした。
大勢のGM従業員、サプライヤー、ディーラーの人々が集結し、歓喜の演出のなかを電気自動車(EV)がラリーするという異様な光景は今でも忘れられません。
2019年のショーは、トランプ政権の下でテーマは自動運転技術にあり、規制緩和を進めて世界をリードする目的がありました。
ハンドルもブレーキもないGMの「クルーズ」が注目の的だったのです。
この車両は今年末にサンフランシスコでタクシーとしての営業開始が期待されています。
■「EVシフト」を具現化させる舞台へと変貌
そして3年間の空白を破り、デトロイトショーはバイデン政権の下で、国家を挙げてEVシフトを具現化させる舞台へと変貌を遂げたのです。
フロアはD3のEVで埋め尽くされています。初日にはバイデン大統領が展示会場の視察に訪れ、EV普及に向けた政府の取り組みを強調しました。
バイデン政権の経済政策の要にあるのは環境政策と産業政策を連携させることで、国内産業の強化と中国排除を実現し、国家経済安保を強化させるものです。
環境規制を強化すると同時に巨額の補助金をばら撒き、国内産業の構造転換を推進しようとしています。
その多大な恩恵を享受するのが米国のD3であり、国家支援の下で世界的な競争力を持ったEVメーカーへの転身が図られようとしています。
「アメリカファースト」はトランプ前政権のプロパガンダで、「関税」を乱用してその実現を目指そうとしました。
バイデン政権でも「アメリカファースト」は変わっていません。ただ手段が「巨額予算と補助金政策」に代わったにすぎません。
バイデン政権は8月にインフレ削減法(IRA)を成立させました。
この法案にはEV購入に7500ドル(約110万円)の税額控除(事実的な補助金)を提供するものもありますが、条件としてEV車両の組み立てを北米に限定。
同時に、バッテリー部品と使用される鉱物の両方に厳しい現地調達要件を課し、事実上、中国からの調達を排除する要求となっています。
D3が圧倒的に有利となる条件であり、現時点でこの要件を満たせる日本車メーカーは存在しません。
こういった政策が続くようでは、日本車の競争力が著しく棄損されることになりかねないのです。
日本車メーカーの世界での成功要因は米国市場での競争力が源泉にありましたが、この先には衰退の危険すらあると言えます。
コメント
コメントの使い方ルールに従えないなら、退場するしかない。カリフォルニアに続いてニューヨークも2035年までに100%EVの方針を出しました。2026年までに35%のEVを求められます。4年後までに売れるEVを持っていないメーカーは米国市場から消え去るしかありません。業界関係で聞く話では時間的に対応が難しいメーカーが既にあります。死物狂いでやらないと本当にまずいですよ。
現実に即さず地球環境にも顧客にも負担になるBEVを、政治や株主圧力の為に売り逃げしようと積極的なメーカーは、日本にはなかったというだけの話