スポーツを通じて挑戦を「たのしむ」「はぐくむ」「つなげる」ことで、あらゆる人を幸せにしていく「Honda Sports Challenge」。今年の元日には、ニューイヤー駅伝(全日本実業団対抗駅伝競走大会)の連覇に挑戦した陸上競技部が、見事栄冠に輝きました。史上7チーム目となるこの快挙達成の背景にあったのは、「チームの総合力」でした。どのようにして、この挑戦を結実させたのか。陸上競技部監督の小川智に、その秘訣を聞きました。
陸上競技部 監督
小川 智(おがわ さとし)
2000年Honda入社。中央大学時代には箱根駅伝に出場。Honda陸上競技部に選手として入部するも、故障の影響もあり2001年にマネジャーへ転向後、2006年にコーチ就任。2019年4月より現職。
チーム内の競争を活性化させ、挑戦する環境を「はぐくむ」
元日に行われたニューイヤー駅伝(全日本実業団対抗駅伝競走大会)で、前年に悲願の初優勝を果たしていた陸上競技部が、2023年、見事連覇を果たしました。
主将・設楽悠太(元男子マラソン日本記録保持者)、伊藤達彦(2021年東京オリンピック・2022年オレゴン世界選手権男子10000m日本代表)という主力2人をコンディション不良で欠いた、万全とは言えない布陣で臨んだレースでしたが、結果は史上7チーム目となる快挙を達成 。陸上競技部監督の小川智は、「特別なことは何もしていませんが、強いて言えばチームの総合力による勝利です」と控え目に話します。
小川は2019年4月に監督に就任し、期間はまだわずか4年弱。どのようにして「チームの総合力」を培ってきたのでしょうか。
小川
本当に特別なことは何もしていないんです。ただ、監督に就任してから変えたことはあります。チーム内に競争を生み出すことです。
小川がこう考えたのには、理由があります。監督就任当時、設楽は2015年北京世界選手権と2016年リオデジャネイロオリンピックに男子10000m日本代表として出場。さらに2017年にハーフマラソン、2018年にはマラソンと立て続けに男子日本記録を更新。ニューイヤー駅伝でも2015~2018年に4度エース区間である4区を走り、3度の区間賞、うち2度は区間新記録更新と、絶対的エースの座を揺るぎないものにしていました。
小川
それまでは、(設楽)悠太の調子次第で、チーム成績が左右されていた部分が強かったんです。そういう場面を何度も見てきたので、そこを変えるためにチーム内の競争力を生み出そうと。また、それまで手薄だったスカウトにも注力して、競争力のある学生を採用しました。それで入ってきたのが、伊藤や青木(涼真。2021年東京オリンピック・2022年オレゴン世界選手権男子3000m障害日本代表)たちです。
チーム内の競争と、有望な新入部員たち。この両輪によって、それまで「設楽に勝てない」と考えがちだったチーム内の雰囲気に変化が生まれます 。
今年のニューイヤー駅伝で1区を走り、タイム差なしの2位と大健闘してチームの連覇に弾みをつけた入部2年目の小袖英人は、次のように話します。
小袖
チーム内に、オリンピックへの出場経験のある選手が3人もいます。そういう選手たちにも負けずに、自分も戦っていこうという選手が多いので、そこが強さの一つの要因じゃないかと思っています。僕自身もオリンピックに出場している選手たちに勝ちたいという気持ちで日々練習しています。
小袖はその言葉通り、2022年に1500mと5000mで自己ベストを更新。チーム内の競争がいい方向に作用していることが分かります。
Hondaが培ったチームとしての総合力を示す、面白いデータがあります。ニューイヤー駅伝の7区間で、区間賞に輝いたのは5区の青木だけ。これはニューイヤー駅伝では珍しいことで、2010年から2022年までに過去大会を振り返っても、13大会の優勝チームで区間賞が一人だけだったのは1度のみ。残りの12チームでは、複数選手が区間賞を獲得しています。
小川
チーム全体としてミスをせず、全区間を高いレベルで走れた結果だと思います。また、昨年走った7人から、実は今年は3人も入れ替わっているんです。それでも勝てたことに、初優勝を果たした昨年とは違った意味があると感じています。
エース一人に頼る駅伝から、全員で戦う駅伝 へ。チーム内の競争意識を高め、選手個々の挑戦する気持ちを「はぐくんだ」ことが、連覇につながったと言えます。
主将・設楽の変化と、出場できない選手のサポート意識
「チームの総合力」の底上げ以外にも、小川が監督に就任して取り組んだことがあります。それは、エースだった設楽を主将に就任させる ことでした。
小川
競技力だけではなく、人間性の部分でも向上していかなくては、彼自身の成長にならないと思いましたし、悠太を主将にすることでチームが変わるんじゃないかという期待もありました。周囲からは反対の声もありましたが、強引に押し切りましたね。「向いてないんじゃないの」みたいなことも、結構言われました。
チームがまとまらないといったリスクをはらんでいようとも、個人とチームの成長を信じて決断する。小川にとっても、設楽の主将起用は「挑戦」だったはずです。寡黙な設楽は、言葉でチームを引っ張っていくようなタイプではありません。設楽自身も次のように話します。
設楽
食事のときに後輩たちとプライベートの話なんかをしてコミュニケーションを取ることはよくありますが、自分から競技の話をするようなことは普段ありません。
ただそれでも小川は、主将になった設楽に大きな変化が見えたと言います。それを強く感じたのは、今年のニューイヤー駅伝の前日。昨年の大みそかに行われた、1年を締め括るミーティングのとき。
小川
主将としての挨拶が「スタッフの皆さん、1年間サポートありがとうございました」という、スタッフへの感謝から始まったんですよ。これまでそういうことを言うタイプじゃなかったので、本当に変わったと思いましたね。
設楽にも、その挨拶の意図について聞いてきました。
設楽
自分も他の選手も、昨年1年間でいろいろな記録に挑戦できたりタイトルを取れたりしたのは、スタッフのサポートがあっての結果だと思います。サポートがなければ絶対に昨年のニューイヤー駅伝初優勝や、後輩たちの世界選手権出場という結果には結びつかなかった。ですので、年末最後の挨拶は、まずはスタッフに感謝の気持ちを伝えたかったんです。
設楽のこのような姿勢は、他の選手にも伝播しています。設楽同様に、今年のニューイヤー駅伝にコンディション不良で出場できなかった伊藤もそうです。
伊藤
夏頃から怪我で調子がいい状態をなかなか作れなかった中、ニューイヤー駅伝前に体調を崩し欠場することになってしまいました。出場できないのは仕方がないと思ったんですが、チームに悪影響を与えてしまうことは避けたかった。ですので、サポートに徹しようと思って行動しました。
伊藤は1区を走った小袖とレース前日の昼に一緒に食事に出かけ、「お前なら絶対区間賞取れるよ」と声をかけたと言います。また3区を走った川瀬翔矢には、レース前日・当日と付きっ切りでサポート。小袖にとっても川瀬にとっても、それが力になりました。
小袖
(伊藤)達彦さんが出られないことになり「どうなるんだろう?」と感じましたが、逆に「達彦さんの分までやってやろう」という気持ちが選手の中で強くなり、それがチームの原動力になったと思います。前日にポジティブな言葉をかけてもらったので、そのおかげで本当に自信を持ってレースに臨めました。
小川は、ニューイヤー駅伝に出場できなかった設楽や伊藤のこのような姿勢も、連覇を達成できた要因の一つ だと考えています。
小川
特に伊藤はまだ3年目の若い選手でありながら、すでに日本のエースの一人です。これまで多少体調が悪かったり、足が痛かったりした程度では駅伝のメンバーから外されることはなかったと思います。今回メンバーから外れたことでふてくされたり、不協和音が生まれたりしてもおかしくないような状況ではあったと思いますが、伊藤はそんな素振りは一切見せませんでした。
選手は挑戦を「たのしみ」、見る者の心を動かし挑戦が「つながる」
Honda陸上競技部の活動は、ニューイヤー駅伝だけではありません。選手は1500mに5000m、10000m、3000m障害、そしてマラソンと、それぞれの目標を持って個人種目にも取り組んでいます。
選手たちは普段、埼玉県にあるHondaの狭山工場に勤務し、近くで寮生活を送っています。しかし、実はチーム全体で駅伝の練習を行うのは10月から12月にかけての3カ月間のみ。それ以外の時期は、基本的には個人種目を優先して活動 しています。
小川
チームとしてはニューイヤー優勝を目指し、個人としては世界選手権やオリンピックの日本代表として世界と戦う。この2本柱で、日々練習に取り組んでいます。
しかし陸上競技の練習を「たのしむ」のは容易ではありません。
小川
練習はきついんですよ。でも、その練習をいかにきつく感じさせないように、飽きさせないようにするかという点は意識しています。例えば同じ1時間を走る練習でも、場所をあちこち変えたりとか、あるいは昨年より成長していることがタイムなどで実感できるようにさせたりとか。そういった工夫を取り入れるようにしています。
それでも、壁にぶつかってタイムが伸び悩んだときなどは「たのしむ」のが難しくなってきます。そういうときに力になるのが、ファンからの応援です。
設楽も、これまで何度も壁にぶつかり、その度にファンの応援を後押しにして乗り越えてきました。
設楽
これまでいろんな記録に挑戦してきて壁にぶち当たったこともあったんですが、ファンの皆さんの応援のおかげで立ち直ってきました。また、いい結果が出たときにはファンの皆さんが喜んでくれる姿を見て「挑戦してよかったな」と実感します。これからもファンの皆さんと一緒に、挑戦することの楽しさと素晴らしさを伝えていければいいなと思います。
伊藤も同様です。
伊藤
自分が走る姿を見て「元気をもらえました」とか「自分も頑張っています」という言葉をもらいます。そう思ってくれる人がいるからこそ、自分も一生懸命やろうとまた思えるんです。モチベーションは常に高く維持するのが大切ですが、時に下がってしまうことはあります。そういうときでも、走っている僕の姿を見て刺激を受けてくれる人がいると思えれば、もっと頑張らないといけないという気持ちになり、それが新しい挑戦につながっていくんです。
ファンからの応援を力に変え、選手は厳しい挑戦も「たのしむ」。選手が懸命に走る姿は見る者の心を動かし、相互に「つながる」。その結果、見る者に挑戦を促したり、日々の生活を豊かにできたりすれば…。それが「Honda Sports Challenge」でHondaが見据えるビジョンです。
最後に、選手たちに今後の目標を聞きました。
小袖
個人的には世界選手権の代表入り、そしてオリンピックも目指していきたいですね。ニューイヤー駅伝については、3連覇は簡単ではないので、まずはチーム1人1人が個人競技で成長していきたいです。
伊藤
やはりパリオリンピック。今、ようやく練習が軌道に乗ってきたので、このまま順調に練習を積んでいきたいです。
設楽
個人としてはまずは3月の東京マラソンに出場して、2時間7分台から6分台で走るという目標を立てて取り組んでいます。チーム全体としての来年度最大の目標は、やはりニューイヤー駅伝3連覇ですね。
大きな注目を集めたニューイヤー駅伝連覇ですが、あくまで一つの通過点。Honda陸上競技部の挑戦は、これからも続きます。
スポーツメディア「Number Web」でもHonda陸上競技部が紹介されました
「過去の自分を超えられると信じている」マラソン元日本記録保持者・Honda設楽悠太が“常勝チーム”のプライドを背負って3月の東京で復活を期す
詳細はこちらのリンクよりご覧ください。
https://www.honda.co.jp/stories/060/?from=mediawebsite
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