三菱ふそうトラック・バスは5月22日、欧州市場向け小型EVトラック「eキャンター」新型モデルの量産スタートを発表した。欧米に対してEV化が遅れているといわれる日本だが、eキャンターは自動車メーカーの量産EVトラックで最も先行しており、海外での動向が注目されるところだ。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/三菱ふそうトラック・バス、「フルロード」編集部
日本のEVトラックが欧州を行く
欧州向けeキャンターは、三菱ふそうの完全子会社・三菱ふそうトラック・ヨーロッパ(MFTE)のポルトガル・トラマガル工場で生産し、EU加盟国ほか欧州全域へ出荷する。新型eキャンター量産開始の記念式典(5月22日)には、ポルトガルのアントニオ・コスタ首相をはじめ政府関係者が列席し、同国政府の期待の大きさもうかがえた。
MFTEトラマガル工場では、昨年9月に発表した新型eキャンターを、メイン組立ラインにおいてディーゼル車と混流生産する。これまで欧州向けの初代eキャンターについては、ビルドアップ式による限定生産に留まっていたが、新型では本格的なライン量産へ移行するため、数年前から工場の一部リニューアルを進めていた。
欧州向け新型eキャンターは、プロペラシャフトが不要となるeアクスル(電動駆動軸)、フレーム吊下型の高電圧バッテリーを新たに採用したことで、キャブ幅バリエーション、シャシーの長さ、バッテリー搭載数など、右・左ハンドルあわせて42もの車型の展開を実現し、初代の1車型に対して大幅な拡充となる。
また、欧州域内のeキャンター販売会社(独ではメルセデス・ベンツ商用車ディーラーも含まれる)では、日本市場と同様に「小型EVトラック」という新しい商用車をユーザーがスムーズに運行できるよう、充電設備の選択・設置や、EVトラックを効率的に運用するためのサービスソリューションも提供する。
10年以上前から開発していたキャンターのEV化
欧州市場でのeキャンターは、車両総重量4.25トン~8.55トン級トラックとなるが、「頑丈なシャシーをもつキャブオーバー小型トラック」という日本独特の車種の、さらにそのバッテリーEVを一般販売するのは、史上初でもある。
コンパクトで頑丈なため、欧州のキャンターも日本と同様、ドライバンや冷凍バン、平ボディ、ダンプ、車両運搬車などの架装ベースとして用いられている。これらは都市内で使われることが多いため、実は10年以上前からEV化の開発が進められてきたのだ。
2010年に公開されたEVプロトタイプ「キャンターE-CELL」を経て、2017年に誕生した初代のeキャンターは、三菱ふそうの親会社・ダイムラートラックのメルセデス・ベンツ車を含めても最初の量産型EVトラックとなるほど、それは時代の先を行く取り組みだった。
以来、三菱ふそうから550台以上の初代eキャンターが送り出され、日本とEUを中心に、米国、豪州、ニュージーランドなど、世界各地で累計走行距離800万km以上という、商用車業界屈指の実績を重ねてきた。