全国各地の街中を歩いていると、後輪をカバーのようなもので覆ってタイヤを隠した路線バスとすれ違うことがある。何のためにあんなカバーが付いているのだろうか。
文・写真:中山修一
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■旧い外車を彷彿とさせる後輪のカバー
バスの後輪のカバーは基本的に後付けで、フェンダーにかぶせるようにして、ボルトかネジで固定するのが一般的な取付方法だ。カバーによってタイヤが隠れるため、ノーマルとは一味違う外観に変わるのが最大の特徴だ。
流線形が流行した1930年代を皮切りに、タイヤの上半分をボディの中に隠して流麗なフォルムを強調したクルマが多数誕生している。
後輪にカバーが付いた路線車を見ると、そういった過去のクルマを連想するせいか、普通のバス車両よりも豪華で高級そうなイメージを抱きたくなる。
では、実際カバー付きは他よりハイグレードなのだろうか。まず該当の車両を左側から見始め、続いて右側に注目すると、カバーが付いているのは左側の後輪だけで、右側はノーマルなフェンダーだと気付く。
装飾用なら左右揃えるのが普通ということで、この段階でデザイン上の美しさを求めてタイヤを隠した自動車とは、それほど関係していないと思って良さそうだ。
また、後輪のカバーの有無で、車体に取り付けられた他の装飾や車内設備が変わることも殆どなく、カバー付き車両のスペック的にはごく「普通」だ。
■実はこのカバーこそ事業者の優しさ
バス用のカバーは、装飾よりも実用性を重視したもので間違いなさそうだ。ここで肝心なのはその目的と言える。
全国共通の正式名称は特になさそうだが、左側の後輪に取り付けるカバーを便宜的にフルネームで書くと「リアタイヤ巻き込み防止カバー」になる。
その名の通り、後輪のタイヤハウスの中に人などが嵌ってタイヤの回転に巻き込まれないようにするためのパーツだ。
どちらかと言えばバスの利用者よりも、バスの左後ろを走行している自転車やバイクなど、主に二輪車の保護を目的としている。
大型路線車の場合、タイヤの接地面からタイヤハウス(フェンダー)の上端まで最大1.1mくらいある。それに対して、一般的な27インチクラスの大人用自転車のハンドル高さが1m程度で、原付も高さ1mくらいだ。
バスが左折するタイミングなどで、万一接触して内側に転倒してしまうと、タイヤとタイヤハウスの隙間にハンドルの端がちょうど入る寸法にあたり、タイヤに巻き込まれる確率が高くなる。
そこでカバーを取り付ければ、接触してもカバーが弾いてタイヤハウスの中に嵌り込むのを物理的に防ぎ、最悪の事態を避けられる。
カバーの取り付けは任意なので、カバー付きの車両を運行しているバス事業者は一際、安全に配慮しているとも取れる。