クルマの進化に合わせてタイヤも大きく進化。
クルマにはなくてはならない存在のタイヤで顕著なのが細分化だ。1990年代初頭は特化したモデルと言えば、ハイグリップタイヤとコンフォートタイヤくらいしかなかったが、今ではたくさんある。
エコタイヤも燃費性能を追求した専用タイヤだし、ミニバン専用、SUV専用、ワゴン専用、軽自動車専用タイヤも登場している。
気になるのは、カテゴリーに特化した専用タイヤだ。専用と謳いながら、ただの宣伝文句だったりはしないのだろうか?
プロならトレッドパターンなどを見ただけである程度性能を把握できるだろうが、素人には絶対に無理。
ここでは専用タイヤは本当に魅力的なのかを、タイヤのプロ、斎藤聡氏がわかりやすく考察する。
文:斎藤聡/写真:HONDA、平野学、池之平昌信、ベストカー編集部
性能に特化した専用タイヤにもデメリットはある
専用タイヤというと、ミニバン専用タイヤがすぐに思い浮かぶ。
でも考えてみれば、ハイグリップタイヤや、コンフォートタイヤも言ってみれば専用タイヤのようなもの。
ハイグリップタイヤはスポーツドライブに、コンフォートタイヤは快適性重視のセダン向けとして、それなりに効果が認められている。
もっと言えば、スタッドレスタイヤなど冬専用タイヤの最たるものだろう。
つまり用途を限定して特化したタイヤを作れば、相応の性能を作ることができるのだ。ただし、デメリットがないわけではない。例えばハイグリップタイヤは、たいていノイズが大きいし、乗り心地も悪い。
コンフォートタイヤはノイズは静かだけれど操縦性はイマひとつ。スタッドレスタイヤは、夏場は履けない……。といった具合に何かに性能が特化するとトレードオフで何かの性能が犠牲になる例が多い。
ミニバン専用タイヤがカテゴリーを絞ったタイヤの元祖
ではミニバン専用とか、バン専用、ミニバン専用タイヤはいったいどうなのだろう。
うさん臭く思えてしまうのは、ミニバンの純正タイヤに乗用車用タイヤが装着されている例が多いことだ。最近のライトSUVもトレッドパターンはサマータイヤそのまんま、なんてクルマも少なくない。
絶対に専用タイヤじゃなきゃダメというわけではなく、しかもミニバンを例に挙げれば、乗用車用のタイヤを付けてもまったく問題なく走れてしまう。
それでは専用タイヤを謳って発売した最初のタイヤはなんだろう。
そう、トーヨ−タイヤがミニバン専用タイヤとしてトランパスを発売したのが始まりだ。
これには最初驚かされたが、おりしもミニバンブームに火がついたころ。とはいっても当時それほどミニバン用タイヤで商売になるとはだれも思っていなかったので、最初はかなり冷ややかな目でミニバン専用タイヤの登場は見守られていた。
けれども、確かにミニバンは重く、重心が高く、しかもタイヤサイズもホイールハウスで制限されてしまうため、それほど太くはできない。
さらに加えて、人気が出たのを受け、装備が充実し始めたミニバンはどんどん重くなり、タイヤへの負担も大きくなっていった。タイヤにかかる荷重は、一般的な乗用車に比べるとずっと大きく過酷だった。
それでもロードインデックス(タイヤの荷重指数≒タイヤの耐荷重性能)を超えないように自動車メーカーもタイヤサイズや空気圧を選定しているから、あえてミニバン専用タイヤを必要とはしていなかったわけだ。
そんななか、ミニバン専用に作ったというトーヨータイヤの説明はとてもわかりやすく、なんとなく安心感のない乗り味に不満を感じていたユーザーのニーズと合致してミニバン専用タイヤは爆発的に売れたのだ。
まったく新しい市場なので、わざわざ型を起こして造って、果たして採算が取れるのか? ということだ。たぶんそれが他のタイヤメーカーの考えだった。
その点はトーヨータイヤの慧眼を称えたい。確かにミニバンに専用タイヤを履かせてみると、グニャつく不安定感がなく、カーブでも安定感が高い。安心して運転できる。
その性能のよさがユーザーの共感を呼び、噂が噂を呼んで爆発的な売れ行きを示したのだった。もちろんミニバンブームが大きな追い風になったのは間違いない。
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