日産とホンダがINFINITI、ACURAを日本導入しない理由と事情

日産とホンダがINFINITI、ACURAを日本導入しない理由と事情

 2006年に日本へ導入されたレクサス。2018年は国内で年間約5万5000台販売されており、高級ブランドとして国内でも認知が進んできたようだ。「ジャーマン3(ベンツ、BMW、アウディ)」がほぼ占める国内のプレミアムカテゴリーにおいて一矢報いたレクサスの姿は、自動車ファンとしては嬉しいものだ。

 この“レクサスの(ある程度の)成功”を横目にしながらも、日産の高級車チャンネルである「INFINITI(インフィニティ)」や、同じくホンダの「ACULA(アキュラ)」は、いまだ日本導入がなされていない。

 利益率の高い高級ブランドカーであるはずなのに売り出さないのは、何か理由があるのだろうか。元日産開発エンジニアの筆者の視点で考察する。
文:吉川賢一


■そもそも高級車チャンネルが必要な理由とは?

 日本の各自動車メーカーが高級車ブランドを立ち上げたのは、莫大な市場である北米での販売をターゲットにしたことに起因している。「レクサス」「インフィニティ」「アキュラ」が誕生したのは1980年代。この時代はバブル景気を後押しに、日本の自動車メーカーが世界市場を視野に入れた展開を手がけていた頃である。

ホンダの高級車ブランド「アキュラ」の代表車種といえば、やはりNSX。ブランド立ち上げ当初の1980年代後半はレジェンドとインテグラが代表車種だったが、2006年から初代NSXを販売。現行型NSXは2016年から販売している

 当時米国では、高級車といえばアメリカ製で、日本車は「安いけれど丈夫」というイメージが一般的な認識だったという。そこで各自動車メーカーは、市場規模が大きい北米で、収益率が高い高級車販売を行うため、自社の名前ではなく高級車専用のブランドチャンネルを作り、展開を目指した。いわゆる「ブランディング」をしたのだ。

 1989年にトヨタが米国で立ち上げた「レクサス」ブランドでは、品質や顧客満足度において徹底的にこだわる戦略を取り、結果的に1999年から2010年において、高級車ブランド別販売で11年連続トップとなるなど、成功を収めた。

 トヨタと同じく、1989年に日産が米国で設立した「インフィニティ」。

 日産栃木工場でインフィニティ車の生産に関する特別な訓練を受けた熟練職人「匠」を選出し、集中トレーニングを施すことでインフィニティのコンセプトを高いレベルで昇華させている。高い技術を持つ日本人による、きめ細かなものづくりで生み出される高級車、それに日本人の心配りや粋、おもてなしの心をクルマ作りに反映させるという緻密なブランド戦略で成功し、今や世界40カ国で展開するようになった。

インフィニティ専売車種のなかでも魅力的なモデルはたくさんある。たとえば写真のQX30。ベンツAクラスとプラットフォームおよびエンジンを共有しているCセグメントのクロスオーバーSUV。北米、中国、欧州で販売している。日本で出せば売れそうなのだが…

 いっぽうホンダは北米市場においていち早く高級車ブランド「アキュラ」を1986年に立ち上げた。

 開業初年に早くも自動車ブランド別で顧客満足度1位を獲得し、高評価が定着した。1991年に香港、2004年にメキシコ、2006年に中国、2014年にはロシア市場へも進出し、世界展開が進んでいる。

■INFINITI、ACURAはやっぱり導入しないのか?

 しかしインフィニティもアキュラも、日本市場に導入されていない。

 もちろん、両ブランドで販売されているモデルを日本でまったく導入していないわけではなく、たとえばアキュラの「RLX」は「レジェンド」として、またインフィニティも「Q50」が「スカイライン」として販売されている。ただし、それはあくまでもホンダ車、日産車としてであり、海外向けブランドを導入しているわけではない。

北米仕様のQX50。日本ではスカイラインの車名で販売されている(現行型は日本仕様のエンブレムもインフィニティマーク)

 これには、ブランド構築のために必要な投資が膨大すぎて、儲けが出るほどの戦略が立てられない、ということが背景にある。

 ビジネスが成り立たなければ、経営サイドが計画にGOサインを出すことはなく、「無謀なチャレンジ」ができるほど、トヨタを除く今の日本車メーカーには、余力がないのだ。

 ただしメーカー側もお客様の声には答えたいと願っている。

 現に筆者も、日産社員時代はそう願っていた一人である。

 どうしたらINFINITIのクルマを日本のお客様に届けられるのか、開発の立場として社内で論議したこともあり、当時日本国内にあった「インフィニティオーナーズクラブ」という非公式の団体とコミュニケーションを取ったこともある。会社全体が冷めきっているわけではないということは、言い訳しておきたい。

次ページは : ■もしも日本へ導入されたならどうなる?

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