日本のドライバーに超高回転スポーツエンジンの悦びをもたらし、そしてホンダのスポーツカーイメージを押し上げた存在といえば「タイプR」だろう。
NSX、インテグラ、そしてシビックに設定されたタイプRだが、現在販売されているのはシビックタイプRのみ。しかしその状況はかつてとは異なる。
先代からターボ化され、車格も明らかに大きくなった。それが日本のファンには大きな不満となって残っている部分もたしかにある。
しかし「タイプR」という絶対的な符号には変わらない部分もあるはずだ。長年日本車の歴史を目の当たりにしてきた片岡英明氏に聞いてみた。
文:片岡英明/写真:ホンダ
■ホンダにとっても大切なタイプRの称号
レーシングスピリットと最先端のテクノロジーを投入して生み出した究極のロードカーがホンダの「タイプR」シリーズだ。
レーシングカーの技術を積極的に採用することにより、圧倒的なドライビングプレジャーの獲得を目指した。
記念すべき最初の作品は、1992年秋にベールを脱いだNSXのタイプRである。軽量化も徹底したから刺激的な走りを見せた。
これ以降、ホンダは走りのフラッグシップとして量産車に「タイプR」を設定している。第2弾となったのが、DC2型インテグラにスペシャルチューニングを施したホットバージョンのタイプRだ。
エンジンは1.8LのB18C型DOHC・VTECで、鈴鹿工場の製造ラインの一部に特殊な製造工程を構え、製造ラインから成形したヘッド部分を下ろして手作業でインテーク系とエキゾースト系ポートを研磨する。
わずかな段差までも滑らかに磨き、仕上がると再びラインに戻され、組み上げられた。
このインテグラに続くタイプRが、6代目のシビックをベースに設計され、1997年夏に送り出されたEK9型シビックタイプRだ。だが、最初からタイプRを予定していたワケではない。
シビックにタイプRがないことに不満を漏らす熱狂的なファンとエンジニアの熱意に動かされ、上層部は開発のゴーサインを出した。
当時、シビックはホンダの販売の3分の1を占める基幹車種だったから、国内専用のホットハッチとして開発している。
日常の足としても使える、扱いやすさに強くこだわり、販売価格も20代の若いクルマ好きが買えるように199万8000円のバーゲン価格とした。
エンジンのベースは、シビックのSiRが積む1.6LのB16A型直列4気筒DOHC・VTECだ。が、型式が「B16B」に変わるほどエンジンに手を加え、量産の自然吸気エンジンとしては世界トップレベルのリッター当たり出力116psを達成している。
最高出力は185ps/8200rpmだ。もちろん、軽快なハンドリングと優れたブレーキ性能も身につけていた。
2代目のシビックタイプRは2001年12月に登場する。ベース車は7代目シビックの3ドアだ。イギリスのホンダ・スウィンドン工場で生産され、日本に送り出された。
心臓は2代目のインテグラタイプRに積まれている2LのK20A型直列4気筒DOHC・i-VTECで、トランスミッションは6速MTを組み合わせている。EP3を名乗る2代目のシビックタイプRはパッケージングも独創的だった。
第3世代のシビックタイプRは2007年3月にベールを脱いだ。このFD2型タイプRはセダンベースに生まれ変わった。エンジンは進化型のK20A型直列4気筒DOHC・i-VTECを搭載する。
このタイプRも日本専用のチューニングを施した究極のホットバージョンで、ワンメイクレースも開催された。
サスペンションはサーキットでの走行を意識してハードに締め上げられ、エンジンも225ps/21.9kgmと、レーシングエンジン並みに高性能だ。が、惜しまれつつ2010年夏に生産を終えている。
ちなみにヨーロッパ仕様の8代目シビックをベースにした3ドアハッチバックのFN2型タイプRも、2009年秋に限定販売の形で登場した。
日本向けモデルは「タイプRユーロ」を名乗り、ゴルフのGTIのようなグランドツーリング的な味わいを売りにする。
あえていうなら、初代シビックにあったRSのような悠々とした走りを狙ったスポーツハッチだ。K20Z型エンジンのチューニングも意識して抑えた。
「タイプRユーロ」は、サーキット走行を意識したスプリンターではなく公道で痛快な走りを楽しめるアスリート系のグランドツアラーなのである。
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