最近、MX-30 ロータリーEVが登場したことにより、久々にロータリーエンジンが復活した。しかし、駆動にロータリーエンジンを使用しているのは現状RX-8が最後だ。登場当初は色々とマイナスなポイントも言われていたRX-8であったが、そこには当時のマツダの黒があったのだ。
文/西川昇吾、写真/MAZDA
■フォードの指示で4ドアに
2003年に登場したRX-8。それまでロータリーエンジンを搭載していた先代モデルと言えるスポーツカーはRX-7だった。
軽量な2ドアクーペで、ターボで武装したハイパワーなRX-7はピュアスポーツとも評価されていて、ファンも多かったモデルだ。
そんなモデルの後継ということもあり、NAで最高出力がRX-7より劣るエンジン、観音開きの4枚ドアで大きくなったボディと車重などを理由に残念な印象を持ってしまう声もあったそうだ。
しかし、これにはマツダの背に腹は代えられない事情もあった。RX-8の開発時、マツダは経営危機にあり、フォードの傘下にあった。そのため一時期はロータリーエンジンを搭載したスポーツモデルの開発すら凍結されていたほどであった。
それを何とかしてRX-8の開発にまでこぎ着けたのだが、「スポーツカー向けの保険料の対応などにより、4ドアとすること」がフォードからの指示であったのだ。もしこの指示が無ければRX-8は違う形で登場していたかもしれない。
■極秘で勧めたロータリースポーツカーの開発
フォード傘下に入った1996年当時、新型車の開発にはコスト的な制限が多くあった。優先されていたのは収益性の高いフォードとの共同開発車種が中心。
ロータリーエンジンを搭載したスポーツカーの開発は正直フォード経営陣にとっては二の次であったことだろう。
先に述べたようにロータリーエンジンを搭載したスポーツカーの開発は凍結されていた。しかし、ロータリーエンジンという技術はマツダのみが実用化することが出来た唯一無二のメカニズム。
この技術を絶やす訳にはいかないという思いを持ったマツダのエンジニアたちがいた。
彼らは業務時間外で秘密裏にロードスターをベースにした試作スポーツカーを開発した。ロータリーの特徴を生かし、可能な限り車体中央にレスポンスの良いNAエンジンを搭載した優れたコーナリング性能を持つクルマで、自信作であった。
この自信作を役員たちが行う試乗評価イベントにサプライズで持っていき、その場で是非ドライブしてほしいと申し出たのだ。
このテスト走行が後にRX-8へと続くロータリーエンジンの延命を決定づけたと言えるだろう。テストで好感触を持った役員により、ロータリーエンジン搭載車の開発の継続と量産化へと繋がったのだ。
登場当初は国産トップレベルの速さを誇ったRX-7の後継ということもあり、なかなか高い評価を得るのが難しかったRX-8。しかし、その裏にはフォードから課せられた厳しい指示と、何よりロータリーエンジンの存続の危機があったのだ。
しかし、そんな状況でもRX-8として実を結ぶことができた。そこまでたどり着くことが出来たのはマツダのロータリーエンジンに対する誇りと熱い想いがあったからだ。
実際にRX-8に乗ってみると、自然吸気のロータリーエンジンは高回転までストレスなく吹け上がってとても気持ちいいフィーリングだし、ハンドリングも重量物が可能な限り真ん中に寄せられているため、安定感がありながらも軽快で楽しいものに仕上がっている。
運転していて間違いなく愉しさのあるスポーツカーだ。
様々な厳しい状況の中、ロータリーエンジンを継続させRX-8を何とかして世に送り出したマツダには拍手だ。
【画像ギャラリー】苦労に満ちたRX-8の軌跡を追え! ロータリーエンジン搭載の最後のマツダのスポーツカー(24枚)画像ギャラリー
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