58秒820。これがなにを意味するか? 筑波サーキットでの市販車最速ラップタイムは日産GT-Rが記録を持っているのだが、全長わずか2㎞の筑波サーキットでコンマ1秒を切り詰めるのに、どれほどの繊細なタイムアタックが求められるのか? プロドライバーが極限のドライビングでタイムを詰めていくなか、最後の頼りとなるのがタイヤだ。市販車最速ラップに挑むことで、タイヤ開発技術の究極に迫る、その現場を目撃した!
文・写真/梅木智晴(ベストカー編集委員)
【画像ギャラリー】うぉぉぉぉ!! 歴史的瞬間に立ち会った! GT-Rツクバ最速LAP達成にかけるダンロップの心意気(6枚)画像ギャラリー筑波サーキットで1分を切ることの難しさ
筑波サーキットの全長は2045m。4輪車のラップタイムは速いクルマで1分5秒前後と言うコース。ベストカー本誌でも80年代から90年代頃はニューモデルが出るとヤタベでゼロヨンを計測し、ツクバでラップタイムを競うというのが定番の企画だった。この当時、R32GT-RやNSXのような、市販車最速レベルのモデルのラップタイムが1分5秒前後だった。
ちなみにこの時代、絶大なる人気を誇ったグループAレースが筑波サーキットで開催されていて、R32型スカイラインGT-Rがマークした最速ラップが56秒933、その後継カテゴリーとなったJTCCマシンのBMW318iが58秒830と言うのが筑波の最速ラップ。スリックタイヤを履く、レース専用に開発されたツーリングカーレースでもギリギリ1分を切るレベルのコースなのだ。
直線が短く、タイトなコーナーの連続する筑波サーキットではパワーだけではタイムは出ない。コーナーとコーナーを繋ぐライン取りと、コーナー脱出時のトラクションで速度を殺さないように走り、コーナリング速度を維持できるタイヤ性能が求められるのだ。コースが短いため、コンマ1秒を削り取るのがもの凄く大変なコース、それが筑波サーキットなのだ。
タイヤも含め、市販車そのままのスペックでタイムアタック!
前置きが長くなってしまったが、現在、市販車最速ラップレコードを持っているのは日産GT-R NISMO。2020年モデルがマークした59秒361で、これは日産が2019年に実施したテストでマークしたタイムだ。言うまでもなく、タイヤも含めて完全に市販車と同じ状態でのタイムアタックだ。それまで市販車で1分切は難しいとされていたツクバをR35GT-Rは2020年型NISMOでクリアしてしまったのだ。
GT-Rが履くタイヤは標準仕様もNISMOもダンロップで、専用に共同開発された『SP SPORT MAXX GT600DSST』だ。言うまでもなく、市販車用タイヤなのでサーキット専用のSタイヤではない。欧州ではアウトバーンで300km/hでの巡航もあり得るので、それに対応した耐久性を持つ必要があるし、高速道路での雨にも対応しなければならない。さらに、GT-R用タイヤはランフラットタイヤだ。これらは、サーキットでの性能に特化させたタイヤに比べると、さまざまな面で制約が多く、純粋にタイムアタックだけを考えると、デメリットも多いのだ。
しかし、「市販車最速ラップ」を謳う以上、タイヤをサーキットに特化させた仕様にすることはできない。あくまでもR35GT-Rの純正装着タイヤ(OEタイヤ)に準拠したタイヤ仕様でなければ意味がないし、タイムアタックをする価値もない。
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