今のアラフォー・アラフィフ世代が子供のころに見ていた自動車カタログは「読む」ものだった。カタログの中で物語が進行し、読んでいて楽しかった思い出しかない。そんな昔のカタログには、読者にぶっ刺さる強烈なコピーが各所にあった。読み応え抜群の昔のカタログの世界へ、読者の皆様をご招待したい。
文:佐々木 亘╱写真:トヨタ自動車、MAZDA、スバル
■壮大な脚本と荘厳な背景! 語りかけるトヨタのカタログ
トヨタの作るカタログでは、含みを持たせてユーザーに想像させる、独特のワードセンスが光る。
1985年に登場し、現在も人気が衰えないAE86。
カローラ・レビンのカタログには、こんな一節が載っている。
「スポーツの意味を、教えてあげよう。リアル・ヒューマンスポーツ新レビン誕生。」
ここを見ただけで、もうレビンに乗りたくなってくる。
他にも「スポーツにもクオリティがある」とはじまり、「いつからスポーツは、ただのファッションになりさがってしまったのだろう」と、ノンフィクション小説を読んでいるような、言葉選びが目立つ。
2代目ソアラでは「人とクルマは、新しい関係を持つことになるかもしれない」とはじまり、車両統合制御システムの説明が始まっていく。
こうした言葉を目にすれば、読み手側は「この後どうなるの?」と読み進めるほかない。
巧妙な語り口と、人気小説のような書き出しでユーザーを引き付けたトヨタのカタログ。
世界のトヨタへ躍進した背景には、秀逸なカタログも大きく関係していたのかもしれない。
■短文秘められる熱くて強いマツダの思い
「騒げや、美意識。」「心の鍵を開けるシルエット」「デリカシーが織りなす迫力です。」
いずれも1988年に登場したペルソナのカタログに記載された名コピーだ。
ペルソナを知らなくても、高級で作り込まれたクルマなのだなということが、すぐにわかる。
1989年に登場するユーノスロードスターのカタログを開くと飛び込んでくる、ひらがな11文字も素敵だった。それが次の一文
「だれもが、しあわせになる。」
シンプルだが読めば読むほどに深く思いを巡らすことになる。
ロードスターの丸みを帯びたデザインと、全部ひらがなの丸い名文がリンクするのもいいセンスだ。
短い一節から、マツダの熱い魂が感じられる。
クルマはヒットしなかったが、ユーノス800の「十年基準、ユーノス800」という見出し文字も読者をひきつけるものだっただろう。
WEBメディア全盛の現代でも通用する、読者が本文を読みたくなる短く強い言葉が、マツダのカタログには詰まっていた。
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