2023年8月に日本での販売を開始した、8代目となるBMW 5シリーズ。今回、テリーさんにはEVモデルのi5に乗っていただいたのだが、BMWの象徴たるキドニーグリルを眺めてなにやら思案顔。BMWのEVモデルにちょっと物申したいことがあるようで……!?
※本稿は2024年5月のものです
文:テリー伊藤/写真:西尾タクト
初出:『ベストカー』2024年7月10日号
■市販車には思い切りがなくなるBMW
メルセデスベンツとBMWはEVの作り方が異なっていて、ベンツは専用モデル、BMWはエンジン車との併売を好む。
新型5シリーズも併売で、日本仕様は今回乗ったEVのi5のほか、2Lのガソリンターボ(523i)とディーゼルタ―ボ(523d)がある。さらに今後、本国ではPHEVも追加するらしい(日本導入の予定はない)。
パワーユニットの大型デパートという感じだが、そのせいなのか、i5では本来EVでは必要ないはずの大型フロントグリルが鎮座している。もちろんダミーで、近くで見るとほぼフタ。EV専用モデルなら、こうはならなかったのではないだろうか。
BMWのEVといえば、i3、i8を思い出す。どちらも斬新かつ個性的なクルマで、新時代の到来を感じさせてくれたものだが、その後、BMWからあの2台を超えるEVは出現していないように思う。
5シリーズはこの新型が8代目で、その長い歴史があるがゆえにEV専用モデルにはできなかったのかもしれない。当然、EV専用では売りにくいという事情もあるだろう。
また、もしかしたら、BMWの本流はやはりエンジン車で、EVは「ひとつのグレード」に過ぎないという思いがあるのかもしれない。それはそれで尊重してあげたいところだが、どこかで思い切らないと、BMWのEVは巨大なキドニーグリルの呪縛から逃れられない。
ボディカラーを変えられる「iビジョン」など、コンセプトカーでは斬新なEVを作っているのに、市販車になると腰が引ける。この5シリーズも、長年のファンは喜んでいるのだろうか? と考えてしまう。
■潔く大胆なEVを見せてほしい
試乗すると「ボディは重いのに走りは軽い」という摩訶不思議な印象となった。
EV独特の走りということだが、それがi5の魅力になっているかというと、そこまでには感じられない。エンジン車では抜きん出た走りを披露するBMWだが、EVでは他社のクルマとそれほどの差はつけられないというのが正直なところだ。
一方でスイッチ類の操作は複雑で、それを新しいと感じるのか面倒だと思うのか、好き嫌いがはっきりと分かれそうだ。それでいて、インパネのデザイン自体はそれほど斬新でもなく、それもEV専用車ではないからかもしれない。
BMW i5は「旧型クラウンをEVにしたようなクルマだな」と思う。パワーユニットや操作系などは新しいが、基本的なデザインやコンセプトそのものは昔のままという印象なのだ。
新型クラウンはクロスオーバーやSUVで改革に成功して新しいユーザーを獲得しているが、実は昔からのユーザーも多く乗り換えている。やはりクラウンという車名に安心感があるからだろう。
そんな昔からのユーザーは、クラウンの改革を無条件に喜んでいるわけではないとしても、買い換えて、周りから「いいクルマに乗っているね」と言われることで新型の魅力に気づくというケースもある。
私が言いたいのは、BMW i5にそういうストーリーが生まれるのだろうか? ということなのだ。最新のEVなのに新しさを感じないのはなぜなのか。これはやはり、EVを専用モデルで作らない弊害のような気がしてならない。
BMWにはしがらみのない、潔く大胆なEVを作ってほしい。その時に初めてファンはBMWのEVに喝采を送るのだろう。そんなクルマを早く見たいと思う。
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