これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、実用車ベースながら、スペシャルモデルに乗っているという優越が味わえたマーチ12SRを取り上げる。
文/フォッケウルフ、写真/日産
■愛らしいフォルムのなかに本格スポーツの要素を凝縮
マーチと言えば、1982年に初代が登場してから2022年8月に生産が終了するまで、扱いやすいボディサイズと個性を主張したスタイリングで、日本はもちろん海外でも人気を博した。
なかでも2002年から2010年まで販売された3代目マーチ(K12型)は、日産とルノーが共同開発したBプラットフォームを採用したことで注目を集め、約8年の間に多彩なバリエーションを展開した。
今回クローズアップする「マーチ 12SR」は、実用車であるこのK12型マーチをベースにしたメーカーコンプリート車だが、12SRはオーテックジャパンがチューニングを手がけ、日産が販売するという体制のもと2003年から2010年までカタログモデルとしてラインアップされていた。
当時アナウンスされていた情報によると、「クルマを操る楽しさを提供するエントリースポーツ」というコンセプトを掲げ、CR12DEエンジンの高出力化に加え、エキゾーストシステムをトータルチューニングし、さらに専用サスペンションを奢ることで走行性能の大幅な向上が図られている。ファンシーなルックスからは想像もつかないほど、本格派の走りを披露した。
いまどきのカスタム系モデルでは、外観にスポーティなイメージを演出できるエアロパーツを備え、足まわりの設定は乗り心地を損なわない程度に引き締めて操縦性を高めるというのが定石だが、12SRではそれだけにととどまらず、エンジン内部から吸排気、ECUに至るまでチューニングが施されていたのだ。
外観はK12型の愛らしいフォルムはそのままに専用エアロパーツを備え、フロントグリルのデザインを変更して引き締まった表情を演出。足もとにはエンケイ製の15インチアルミホールを奢り、フットワークの軽快感を強調していた。ボディタイプは3ドアと、5ドアを用意。
車内は基本的なデザインこそ標準車を踏襲しているが、SR12専用アイテムでスポーツモデルらしい作りとしていた。専用設計のスポーツシートのほか、オレンジステッチを施した専用ディンプル付本革巻ステアリング、本革巻きシフトノブ、操作性の向上を狙って採用した専用アルミペダルなどのアイテムによって実現した室内は、本格スポーツカーにふさわしいものと言っていい。オーナーは特別なマーチに乗っているという満足感が味わえた。
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