初の母国開催のF1レースに ©︎Red Bull Content Pool
一年を通してさまざまな国でグランプリ(GP)が開催されていますが、日本GPは2020年と2021年が新型コロナウイルスの影響により中止となったため、実に3年ぶり。そして、戦いの舞台となった鈴鹿サーキットは、難易度が高く、ドライバーの腕が試される名コースとしても有名です。熱い戦いへの期待を反映するかのように、予選・決勝のチケットは完売。
そんな日本GPを2人の選手が盛り上げてくれました。
1人目は、この日本GPで2022年のワールドチャンピオンを決めた、マックス・フェルスタッペン選手(オランダ、Oracle Red Bull Racing)。昨シーズンはHondaのパワーユニット(PU)で戦い、Hondaに30年ぶりのドライバーズチャンピオンをもたらしてくれたドライバーです。
今シーズンは独走状態でシーズンを駆け抜け、日本GPで見事にチャンピオンの座を掴んでくれました。フェルスタッペン選手にとって、鈴鹿サーキットはF1ドライバーとして初めて走行した思い出の地。ここで2年連続となる栄冠を勝ち取り、日本のモータースポーツファンを熱狂させました。
2022年シーズンのドライバーズチャンピオンを勝ち取った、フェルスタッペン選手 ©︎Red Bull Content Pool
2人目は、現在唯一の日本人ドライバーである角田裕毅選手です。2021年に「Scuderia AlphaTauri(スクーデリア・アルファタウリ)」からF1デビューし、日本人F1ドライバーとして初めてデビュー戦で入賞。2021年の最終戦アブダビGPでは自己最高の4位に入るなど、注目の若手ドライバーで、今回の日本GPが初めての母国凱旋レースとなりました。
角田選手は2023年シーズンもF1を戦うことが決まっている ©︎Red Bull Content Pool
その角田選手はHondaのドライバー育成プログラム「Honda Formula Dream Project」の出身。Honda Racing School Suzuka(旧SRS:鈴鹿サーキットレーシングスクール)で腕を磨いたホームサーキットでの初レース。予選では13番手から、一時は入賞圏内まで追い上げ、見事に完走を果たしました。
ほかにも話題に事欠かないF1日本GPでしたが、Hondaはタイトルスポンサーとしてだけでなく、今シーズンもオラクル・レッドブル・レーシングとスクーデリア・アルファタウリのレース活動をバックアップしています。ここからは、なぜHondaはモータースポーツに挑み続けるのか。その意義を掘り下げていきます。
より強固になったチームとの絆
2021年シーズンのドライバーズチャンピオン獲得という形で有終の美を飾ったHonda F1ですが、実は、その技術は今シーズン以降もF1の中で活躍しています。2025年まで、2つのチームがHondaの技術が活かされたPUを継続して使用することが決まっているからです。
そのチームが、オラクル・レッドブル・レーシングと スクーデリア・アルファタウリ。Hondaは、HRCを通じてこの2チームにPUを供給するRed Bull Powertrains(レッドブル・パワートレインズ)への技術支援を行っています。
2019年に第4期F1参戦活動で初優勝した時に実際に使われた「Honda RA619H」
特にオラクル・レッドブル・レーシングは、2年連続チャンピオンに輝いたマックス・フェルスタッペン選手を擁するチームです。HondaとしてのF1参戦は終了し、立場こそ変わりましたが、モータースポーツに対する気持ちは変わりません。だからこそ、チームに対しても全力でサポートする。Hondaとチームの絆は強固に結ばれています。
PU、ドライバー、車体、そしてそれらを勝利に導く戦略を立てるチーム。全ての要素がそろわなければ、チャンピオンを取ることができないのがF1の舞台。その中で「『誇れる仕事を残したい』という気持ちを強く持ち、日々全力で頂点を目指していることは、チーム側もよく理解してくれていると思います」と話すのは、HRCの四輪レース開発部の角田哲史エグゼクティブチーフエンジニアです。
角田さん自身も1990年代のCART・F1からHondaのモータースポーツに携わってきた技術者
そんなHRCとチームの絆を象徴するのが、2022年シーズンの第14戦ベルギーGPでオラクル・レッドブル・レーシングが勝利をしたときのエピソード。レッドブルに帯同している吉野誠チーフメカニックが表彰台に立ち、チームを代表してコンストラクターズトロフィー※を受け取るというシーンがありました。
※ドライバー個人に贈られる優勝トロフィーとは別に、チームに送られるトロフィー
角田 現在のF1 PUは複雑で高度な技術の塊。運用するにもノウハウが必要です。ベルギーGPはマシンのパワーがものをいうサーキットなので、PUの貢献を彼らも実感してくれたのだと思います。私たちのような裏方が表彰台に立たせてもらえるのは、とても光栄なこと。PUに関わる全てのメンバーにとって、ナンバーワンを目指そうという気持ちを、さらに奮い立たせてくれる出来事でした。
1-2フィニッシュを果たしたフェルスタッペン選手(中央左)、セルジオ・ペレス選手(左)と共に表彰台で笑顔を見せる吉野チーフメカニック (右) ©︎Red Bull Content Pool
世界の頂点カテゴリーでの経験が、人と技術の成長を加速させる
HondaはF1という世界最高峰の舞台で通用する技術を磨いてきました。そこにHondaが見いだしている意義とは、単に栄冠を掴み、存在をアピールすることではありません。世界一を目指す中で得られる経験が、Hondaに大きな成長をもたらしてくれるからです。
角田 F1は技術の開発スピードが圧倒的に早く、少しでも油断しているとすぐに置いていかれます。どんなに魂を削ってやっていても、屈辱的な経験をすることもあるのです。しかし重要なのは、それでもHondaはどん底から頂点に届いたということ。他にはない経験によって人と技術が成長することが、何よりも尊いと思っています。今回の日本GPでフェルスタッペン選手がもたらしてくれた2連覇は、私たちにとっても勝利であり、自信につながっています。
四輪レースの中心地「HRC Sakura」では多くの技術者が研究に励んでいる
つまり、F1は人材育成の場でもあるのです。HRCでは、レーシングエンジンの経験がない新人がいきなりPUを担当することも。そして、F1での経験を積んで飛躍的な成長を遂げた後、別の部署へと異動してその知見を活かす姿も見られます。
角田 F1は、ラップタイムやレース順位という尺度だけで本気の技術勝負をする場。会社の事情に関係なく、残酷なまでにハッキリと結果が出る極限の戦いです。それに耐えて日々もがき苦しみながら、『どうしたら世界一になれるのか』を考え抜いたことがある人材は貴重。その経験をHondaが手掛けるさまざまな分野に還元し、開発を加速させていくことにこそ、Hondaがモータースポーツを支える意味があるのです。
苦労して開発したPUは我が子のような存在
2050年のカーボンニュートラルや交通事故死者ゼロの実現、さらにはモビリティを通じた新たな価値の創造を目指すHondaにとって、その技術を生み出し支える“人”は、何よりの財産となります。
角田 現在、モータースポーツの世界では、カーボンニュートラル燃料や電動システムの開発が積極的に行われています。私たちが取り組むF1の技術も、近い将来には一般へ普及していくはず。そのためには、この先も挑戦を続けていかなければなりません。未来に向けた技術開発へ積極的に挑戦していくHondaに、今後も期待してください。
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