インディアンモーターサイクルがラインナップするバガー・カテゴリーに新型車「チーフテン・パワープラス」が加わった。水冷Vツインエンジンとアルミフレーム、それに各種電子制御システムやリア・レーダーによるライダー支援機能も装備した最新鋭のアメリカンクルーザーを、米国ラスベガスで体験してきた。
アメリカンクルーザーのトレンドを知る
かつてアメリカンと呼ばれたアメリカンクルーザーのカテゴリーには、流行のスタイルがある。映画「イージーライダース」や「ハーレーダビッドソン&マルボロマン」にできてきたカスタムバイクは、当時のトレンドのスタイルである。そのトレンドを取り込んでメーカーが新型車を発表し、それが後にアメリカンクルーザーのスタンダードなスタイルとなった例も多々存在する。また同様に、レースシーンから影響を受けた例も多数ある。ボバーと呼ばれるスタイルは、道路環境が劣悪だった時代に、泥ハネを防止するために採用されていた、前後タイヤを深く覆うディープフェンダーを採用したクルーザーモデルを、軽量化しスポーティなパフォーマンスとスタイルを得るためにディープフェンダーを短くカットしたことが語源である。またアメリカ特有のモータースポーツであるドラッグレースに参加するためのロー&ロングなスタイルだったり、フラットトラックレースを戦うレーシングバイクのスタイルだったり、とにかくアメリカンクルーザーは、ユーザーが新しく造り上げたスタイルを巧みに取り入れながら、進化してきた。
インディアン・モーターサイクル(以下インディアン)が発表した新型車「Chieftain Powerplus/チーフテン・パワープラス」も、そんなアメリカンクルーザーのトレンドから誕生したモデルだ。

↑今回の試乗コースにはラスベガスの街中を走る機会はなかったが、コース中には速度規制が掛かった小さな集落をいくつか通り抜けた。その際はエンジンの低回転域を使い、ノロノロと走ることになったが「チーフテン・パワープラス」は重心バランスが良く、扱いやすかった。

↑低くコンパクトなフロントカウルと、左右のバッグのラインを含めタンクからリアフェンダーまで流れるようなボディラインに、高性能なエンジンとシャシーを組み合わせたことで生まれる、若々しいオーラこそが「チーフテン・パワープラス」の魅力だ。

↑ラスベガス郊外のリゾートホテルを舞台に行われた発表&試乗会。今回は「チーフテン・パワープラス」と同じ新型パワープラス112エンジンを搭載した「ロードマスター・パワープラス」「チャレンジャー」「パースート」も発表された。
パフォーマンス重視のアメリカンクルーザーのトレンド
アメリカンクルーザーといえば、古き良き時代のスタイルとメカニズムを好むユーザーが数多くいることは日本でも知られている。しかしその対局とも言える、非常に先進的な思考を持ったユーザーが、いまのアメリカンクルーザー市場を牽引している。
そのユーザーは長距離走行を好むのは他のクルーザー・ユーザーと同じだが、高速道路の巡航スピードはとても速く、またワインディングも好んで走る。したがってフロントカウルの装着は必須であり、エンジンはもちろんサスペンションのパフォーマンスに高い意識を持ち、チューニングやより高性能なアフターパーツにも関心を持っている。その市場の盛り上がりをカタチにしたのが、大型フロントカウルとサイドバッグを持つアメリカン・クルーザーモデル、バッグを持つことから“バガー”と呼ばれるマシンで争われるロードレース選手権「King of the Baggers/キング・オブ・ザ・バガース」だ。

↑デザインのプレゼンテーションを行ったのは、インディアンの車体デザインの責任者であるオラ・ステネガルド。プレゼンテーション画面右のカウルが新型「チーフテン・パワープラス」用。左上は旧「チーフテン」用、左下は「チャレンジャー」用カウルだ。

↑こちらも新型「チーフテン・パワープラス(右)」と「チャレンジャー」のカウルの比較。ライトユニット上部のエアダクトや両サイドのキャラクターラインなど、新型「チーフテン・パワープラス」のカウルデザインは、「チャレンジャー」がモチーフとなっている。
ツーリングには最適だがレースには不向きであろうことは容易に想像が付く、純正と同形状の大型フロントカウルとサイドバッグの装着が義務化され、最低車体重量260kg!! など独自のレギュレーションで縛られたこのレースは、話題を呼ぶためのショーレースかと思われたが、いまやアメリカのロードレース選手権の人気カテゴリーとなった。そしてインディアンはファクトリーチームを仕立てて参戦し、5シーズン中3シーズンでタイトルを獲得している。
チーフテン・パワープラスはエンジンもフレームも一新
新型車「チーフテン・パワープラス」は、そのファクトリー・チームが制作したレーシングマシンのベースとなった、「Challenger/チャレンジャー」のプラットフォームを新たに継承。そのエンジンは挟角60度のV型2気筒SOHC4バルブで、排気量を112キュービックインチ/1834ccに拡大。最高出力も最大トルクも向上した“Powerplus112”エンジンとなった。

↑エンジンは「チャレンジャー」に搭載されていた挟角60度V型2気筒SOHC4バルブのパワープラス・エンジンをベースに、ボアを2mm広げることで排気量を1834ccに拡大したパワープラス112エンジンを搭載。そのエンジン開発はキング・オブ・ザ・バガーズ・レースの現場で行われたという。

↑「チーフテン・パワープラス」のために新たにデザインしたフロントカウルを装着。可動式の電動スクリーン、スピード&エンジン回転計、大画面のタッチスクリーンディスプレイ、スピーカーなど、旧「チーフテン」と同じ装備が、このカウル内に収められている。

↑178mmのフルカラー・タッチスクリーンディスプレイには、走行モードや各種機能など、さまざまな項目を設定が可能。リアレーダーによる後方視界の警告などはこのディスプレイのほか、両サイドミラー内側に配置した警告灯によって行われる。

↑SHOWA製倒立フォークに、ラジアルマウントのブレンボ製4ポットキャリパーをダブルで装着。フロントブレーキレバー、またはリアブレーキペダルを単独で操作しても、ある速度以上になると走行条件に最適な前後ブレーキバランスに自動的に振り分けるエレクトロニック・コンバインド・ブレーキ・システムも搭載。
そのエンジンをフレームの一部として利用するシャシーは、アルミ製のバックボーンフレームを中心にいくつかのセクションに分かれたアルミ鋳造フレームで構成。SHOWA製倒立フォークと、FOX製の油圧プリロード調整機構付きモノショックユニットをリアに搭載。フロントブレーキには、ラジアルマウントしたブレンボ製4ポットキャリパーと320mmブレーキディスクをダブルで装備。ボッシュ製6軸IMUを搭載し、ダイナミックトラクションコントロールとABSを組み合わせて制御するSmart Lean Technologyを搭載している。
また「チーフテン・パワープラス」はリアにボッシュ製ミリ波レーダーを搭載。左右後方の死角に車両が入ったことをライダーに警告する「ブラインドスポット・ワーニング」や、後方車両の接近をライダーに知らせる「テールゲート・ワーニング」、衝突の可能性が検出されると、リアケース・ライトで後方接近車両に警告する「リア・コリジョン・ワーニング」などライダー支援機能も追加。最新のスーパースポーツモデルやアドベンチャーモデルと同等とは言わないまでも、それらに匹敵する車体造りと先進的なテクノロジーを搭載している。

↑テールライト上に設置されたボッシュ製ミリ波レーダー。これで読み取った後方の車両状況を元に「ブラインドスポット・ワーニング」「テールゲート・ワーニング」「リア・コリジョン・ワーニング」を稼働。インディアンのクルーザーモデルの多くは、走行状況や車体姿勢を把握するための6軸IMUを装備しているが、それもボッシュ製である。
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