1985年の竣工以来、ホンダ本社として親しまれてきた東京「ホンダ青山本社ビル」だが、老朽化に伴う建て替えのため、今年ついに約40年にわたる歴史に幕を閉じることとなった。ホンダを象徴する存在でもあったこのビルの内部、最後に公開されたその姿を紹介したい。
青山一丁目交差点を見下ろす地上17階、地下3階のビル
ホンダ技研の設立は1946年、静岡県浜松市でのことだった。ドリームシリーズなどの実用的なバイク開発で規模を拡大し、1953年に本社は東京・八重洲へ移転。「スーパーカブ」や「CB750Four」、自動車では「N360」「シビック」などのモデルはこの頃に誕生している。現在のホンダ青山本社ビル、正式名称は「Honda青山ビル」は1985年に竣工され、特徴的な白い外壁やベランダのレイアウトで多くのファンにも親しまれてきた。ビル1階・Hondaウエルカムプラザ青山は一般の来場者にも解放されており、製品展示やカフェスペースとして利用されている。
そんな青山ビルが老朽化に伴い改築されることとなり、ウエルカムプラザは3月31日に閉館、本社機能は5月までに移転することとなった。ホンダは3月までクロージングイベントを企画しており、往年の名機や社史のパネルを展示中。さらに2月には「Honda青山ビル見学ツアー」として、普段非公開のエリアの見学ができる企画も行った。
地下に置かれた「宗一郎の水」と防災グッズ
ツアーで最初に訪れるのは地下3階。ビル最深部にあたるこの階は配電室や機械室がおかれているが、その中で異彩を放っていたのが「ヒバの大樽」だ。カナダ産のヒバの木を用いて作られた樽が2つ設置されており、合計70トンもの飲用水が貯められている。さらに地下2階には1万人分にもなる、非常時用の食品や衣料品もストックされる備蓄庫も設置されていた。
これらの水、非常用品類は、予期せぬ災害が起きたときのために用意されているもの。現在でこそ大都市での災害対策は一般的となっており、オフィスビルには防災備蓄義務が課せられているが、青山ビル竣工時にはあまり重要視されておらず、もちろん義務もなかった。しかしホンダは当時から敢えて大きなスペースを割いてこれらの備蓄品を確保しており、非常時の人間の安全を最重要視。この考え方はホンダが自動車開発で目指す「M・M思想(マン・マキシマム/メカ・ミニマム)」という、人間のためのスペースを最大化する価値観と同根といえるだろう。
また、この備蓄水がポリタンクなどではなく木樽に貯められていることで、飲んで美味しい風味も得ることができている。このため備蓄水はホンダ創業者・本田宗一郎の名を冠する「宗一郎の水」として、ウエルカムプラザにて一般来場者へふるまわれているのだ。
交差点の視界をさえぎらない、乗り物メーカーとしての思いやり
M・M思想はそんな地下の備蓄のみならず、ビル全体の設計を貫く思想でもある。見学ツアーではホンダ本社オフィス内も目にすることができるが、そこで気づけるのは柱が非常に少ないこと。強度メンバーとなる柱は建物の隅にまとめられ、業務空間となるオフィスは大きなホールのように各階で設計されている。エリアはパーテーションで区切られているが、必要に応じて取り払い、部屋にとらわれない自由な行き来を可能とし、広々とした空間で仕事ができるように注意されている。さらに「社長室」や「役員室」もなく、従業員・経営者といった区別にとらわれない意見交換が行える「ワイガヤ」の環境としても機能する。
とすれば広い床面積が必要となるだろう、と考えるところだが、ビルは不思議なことに敷地いっぱいに立っているわけではない。とくに青山一丁目交差点に面したカドは、ビルのエントランスを兼ねつつ、丸く削りこまれた形状をしている。さらに歩道とビルの間のスペースも大きく、開放感がある雰囲気だ。これはバイク、自動車を運転するドライバーが交差点での視界を広くとれる工夫で、モビリティを扱うメーカーが交通に悪影響を与えない、という思いやりを示すもの。さらに広いエントランス前のスペースには、地面にガス、水道パイプが埋め込まれており、これも災害時の炊事で利用できる機能も持っている。
また、これもオフィスビルには珍しい、ベランダを全階にわたって備えているのも特徴的。これも災害時の備えとして、地震などで割れた窓ガラスが歩道へ落下するのを防ぐためのものだ。もちろんその分、建物のスペースは圧迫されてしまうはずながら、地下倉庫や敷地のスペース同様、人間の安全を第一に考えた思想が現れる箇所でもあった。
質素な応接室は当時のまま
ビル最上階には応接室、大会議室がおかれ、品のある空間を形成している。窓からは赤坂御所や迎賓館も一望できる好ロケーションだ。現在は高層ビルが立ち並ぶ青山エリアだが、ビル竣工当時には広く周囲を一望できたという。応接室はシンプルだが落ち着きのあるクリーム色の内装で統一。本田宗一郎氏は当時、「もの作りの会社である以上、工場や研究所を最も美しくするべきで、応接室やオフィスは簡素でよい」として、華美な装飾は一切ない。その哲学は現在も引き継がれ、竣工当時の調度品がそのまま今でも使われているという。会議室は非常に大きいものの、こちらも装飾は少ないシンプルな内装。壁面には白い額縁がかけられているのみだ。ここにも、ストイックな企業風土が垣間見える。
ウエルカムプラザ解放は3月31日まで
ホンダのフィロソフィがいたるところに感じられる青山ビルだが、老朽化というやむを得ない理由によって姿を変えるのは致し方ないところ。3月31日(月)まで1階ウエルカムプラザはオープンしており、ビル竣工40年のあゆみを確かめるクロージングイベントとして様々な展示が行われている。カフェエリアやオフィシャルグッズも楽しめるこの空間も、ビルの持つ哲学も、遠からず現れるであろう新たな施設に受け継がれるであろうことは間違いないが、名残を惜しむファンはぜひとも最後の風景を目にしたいところだ。
Hondaウエルカムプラザ青山オフィシャルサイト
https://global.honda/jp/welcome-plaza/
詳細はこちらのリンクよりご覧ください。
https://news.webike.net/bikenews/449027/
ホンダ青山本社ビル「ウエルカムプラザ」一般公開は3月いっぱいまで フィロソフィと歴史に満ちたその内部をチェック【画像ギャラリー】
https://news.webike.net/gallery3/449027/449153/
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