2024年に発表されたドゥカティの新しい2気筒エンジンは、「V2」と名付けられていた。これまで「L型」と表記されてきたドゥカティの代名詞であった90°2気筒エンジンは、今後正式に「V型」と呼ばれることになる。そんな新V型エンジンについて、今回は改めてディテールを確認してみよう。
文/Webikeプラス編集部
デスモドロミックに別れを告げ、新しい時代へ
「V2」エンジン最大のポイントはデスモドロミック機構が採用されず、タイミングもベルトではなくチェーンとされるなどメンテナンス性なども向上。エンジン単体重量はドゥカティ史上最軽量となる54.5kgで、IVTインテーク可変バルブ・タイミング、DLC処理が施されたロッカーアーム、インテーク・バルブの中空ステムなどを採用、異なる特性で汎用性を高めるため、120psおよび115.6psの2つのバージョンが用意されている。既に多くの2025年モデルに搭載されているこの「V2」エンジンは、ドゥカティの歴史を背負いつつ新しい時代の主力パワーユニットとなっていくだろう。
ドゥカティの90°V型2気筒エンジンは、ドゥカティを象徴する数多くのモデルに搭載され、これまでに量産車ベースのレースで400回以上の勝利を挙げ、1000回以上の表彰台を獲得している。ドゥカティは、このエンジンに対する継続的な投資と開発を行なっている。新しいV2エンジンは、ドゥカティ史上もっとも軽量な2気筒エンジンで、歴代モデルのパンタに始まり、デスモドゥエ、デスモクワトロ、テスタストレッタ、スーパークアドロへと引き継がれてきた2気筒エンジンの伝統に新たな章を付け加える。この「V2」ユニットは、あらゆる回転域で力強いトルクを発生し、高回転域ではスポーツバイクならではのパワーを発生して、最大限の走る楽しさを提供する。
ドゥカティは、過去わずか7年の間に、デスモセディチ・ストラダーレから、スーパークアドロ・モノ、V4グランツーリスモ、今回の新しいV2エンジンに至るまで、新開発された4つの新しいエンジンを導入してきた。これらのエンジンは、搭載されるモーターサイクルの用途に応じて、最適なテクニカル・ソリューションを提供するために開発されている。
この新しいV2エンジンは、ユーロ5+規制に適合しており、排気量は890cc、IVT(Intake Variable Timing)インテーク可変バルブ・タイミング・システム、アルミニウム・ライナーを備え、重量はわずか54.5kgで、軽量なV2エンジンの新たなベンチマークとなっている(スーパークアドロ955と比較して-9.4kg、テスタストレッタ・エボルツィオーネと比較して-5.9kg、スクランブラー®デスモドゥエと比較して-5.8kg)。V4グランツーリスモで導入され、今回の新しいV2エンジンにも採用されたスプリング式バルブ駆動システムにより、低回転域でのスムーズな作動とメンテナンス・コストを重視したエンジンとなり、バルブクリアランス点検は30000km毎に設定され、カテゴリーのベンチマークとなっている。

890ccの排気量から120psの最高出力を発生する「V2」エンジンだが、オイル交換は15000kmごと、バルブクリアランス点検は30000kmごとと、これまでの2気筒エンジンよりもメンテナンスサイクルが長くなっていることにも注目したい。
優れたパフォーマンスと軽量化を実現するモダンで効率的な構造
90°V型2気筒レイアウトは、スリムなエンジンとして定評があり、その個性的なサウンドとパワー・デリバリーは、ドゥカティの伝統として定着している。さらに、90°に設定されたV型レイアウトにより、振動を排除するために必要なバランサー・シャフトを装着することなく、一次振動を打ち消している。
これらの特性によって、最高のライディング・プレジャーが実現しています。また、前方シリンダーと水平面の角度が20°になるように、エンジン全体を車両後方に回転させることにより、重量配分が最適化されている。
新しいV2エンジンの特徴の一つは、優れた汎用性で、そのコンパクトな寸法と、用途に合わせてパフォーマンスを調整することにより、さまざまなタイプのモデルに搭載することが可能になっている。そのため、異なる出力を備えた2つのバージョン、120ps@10750 rpmまたは115.6ps/10750rpmが用意されている。ボアおよびストロークは96×61.5mmで、ボア/ストローク比は1.56となる。これは、テスタストレッタ・エンジンとスーパークアドロ・エンジンの中間値で、テスタストレッタよりも高い出力値を発生しながらも、スーパークアドロよりも公道での使用に適したトルク特性を実現している。また、最大トルクは、93.3Nm/8250rpmまたは92.1Nm/8250rpmとなっており、5速および6速のレブリミットは11350rpmに設定されている。
よりスポーティな120psバージョンでは、サーキット走行専用のレーシング・エグゾーストを装着することで、最高出力を+6psとなる126ps/10000rpmに、最大トルクを+5N・mとなる98Nm/8250rpmに引き上げると同時に、重量を4.5kg削減することができる。
115.6psのバージョンには、電装系における最大の負荷に適切に対応できるように、より強力なオルタネーターを搭載。また、コネクティング・ロッドとフライホイールが強化され、過酷な条件での走行や、リラックスしたライディングでもスムーズな作動を実現。その結果として、慣性モーメントが12%増加し、重量が0.51kg増加したにもかかわらず、低回転域での作動がより滑らかになっている。このバージョンのギア比は、荷物やパッセンジャーを乗せた状態での坂道発進を改善するために、1速と2速のギア比が低く設定されている。
インテーク可変バルブ・タイミングを採用
IVT(Intake Variable Timing)インテーク可変バルブ・タイミング・システムにより、新しいV2エンジンは、低回転域における非常にリニアなトルク伝達、俊敏かつ快適なスロットル・レスポンス、高回転域におけるスポーティな特性を実現。IVTシステムは、カムシャフト・エンドに設置された位相バリエーターを使用することで、インテーク・バルブの制御タイミングを52°の範囲で連続可変的に変化させることが可能となる。エンジン回転数とスロットル開度に基づいて最適なバルブ・オーバーラップを設定することにより、低中回転域ではスムーズで持続的なパワー曲線が得られ、高回転では優れたパフォーマンスが得られる。最大トルクの70%以上を3000rpmで発生し、3500rpm~11000rpmの範囲では常に最大トルクの80%以上を維持する。
エンジン・パフォーマンスを最適化するため、インテーク・バルブを開くフィンガーロッカーには、MotoGPマシンのデスモセディチと同様に、DLC(ダイヤモンドライク・カーボン)処理が施されている。バルブの駆動はチェーンによって制御され、リターンはスプリングによって行なわれる。インテーク・バルブ・ステムは中空になっており、5%の軽量化を達成することにより、駆動システムの効率が向上。また、バルブにはクロームメッキが施されている。
インテーク・エアは、52mm径の円形スロットルボディから供給され、サブスロットル・インジェクターはライド・バイ・ワイヤ・システムによって制御されている。4つの異なるパワー モードを提供することにより、さまざまなライディング・コンディションや用途に合わせてパワー・デリバリーを調整することができる。このシステムは、専用のマップにより、ギアごとにトルク特性を変化させることができるため、各ギアで最適なスロットル・レスポンスを提供する。
両パワー・バージョンにはノックセンサーが搭載され、ハイオク・ガソリンが入手できない場合でも、信頼性を損なうことなくエンジンを作動させることができ、これによって高品質なガソリンの入手が難しい国でも安心して旅を続けることが可能となっている。
新しいV2エンジンには、インテーク・バイパス回路が設置されている。バイパス回路のダクトは、インテーク・バルブの近くにある2つのシリンダーのインテーク・ダクトとエアボックスを接続し、空燃比を改善して燃料効率を高める。このようにして、エンジンの燃焼効率が向上し、燃料消費量とCO2排出量が削減され、安定したパワーが供給されている。
クランクケースはダイカスト製で、シリンダーライナーの周囲にはウォーター・ジャケットが設置されている。スーパークアドロ・エンジンと同様、新しいV2ユニットにはアルミニウム製ライナーが採用されており、エンジン組み立ての初期段階でクランクケース・ハウジングの穴に挿入される。この設計により、シリンダー・ヘッドをクランクケースに直接固定することが可能になり、エンジン剛性を引き上げながら、エンジンをコンパクトにできるという大きなメリットが得られる。シリンダーライナーの壁厚は薄いため、壁に沿って流れるクーラントとの効率的な熱交換が可能になっている。


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