移動手段にローカル路線バスを使ってのんびり旅する……TV番組の影響もあって、かなり高い知名度を持つ旅のスタイルと言える。その割に、“口は出すけど”なら尽きぬとも、いざ実行に移すところまで到達する人の数となれば、99.9%が篩にかけられるほど極少数な気がする。
文・写真:中山修一
(ローカル路線バス旅にまつわる写真つき記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)
■いちおう3位です
ローカル路線バス旅をやるのが流行っているのはTV番組の中だけ? 旅情あふれるローカル区間を走るバスに乗ると、たまにそんなことを考えたりする。
これまで、遠方から来てバス旅してるんだろうな〜、と思わせる人にはあまり、というか殆ど出会ったことがないのが実情で、例外だったのは日本一長い距離を走る一般路線バスの、奈良交通八木新宮線くらいだ。
やはり旅行の移動手段に路線バス自体が選ばれないのだろうか? 本当にそうなのか、日本交通公社の「旅行年報2023」を開いてみると、自家用車→列車→路線バスと続いており、旅行中に選ばれる移動手段としては、路線バスは全体の3位だった。
それなら出先でもっとバス旅行者見かけるはずじゃ? と疑問が生じてしまうが、この統計データは複数回答可で、電車と組み合わせた短距離利用をはじめ、超有名観光地や大都会での利用、おそらく高速バスまで全て含まれている。
パーセンテージで見ると路線バスの利用率は全体の10.6%。この10.6%から、上記の要素を差し引いてしまったら、ローカル区間のシェアがどれだけ残るんだ? という話になるのが想像できる。
■やる人が超少ない切実な事情
TV番組の影響も手伝って、知名度だけはダントツに高い印象を持つローカル路線バス旅であるが、残念ながら実際にやっている人は極少数に留まっているのが実情だろう。
ではどうして、ローカル路線バス旅を楽しむ人が少ないのか。バスより電車のほうがいい、のような興味の問題もあるが、ここでは置いておくとして……
……バス旅に踏ん切りを付けられない足枷が蠢いてるに違いない。そう考えると、クリアするのが意外と難しい(!?)切実な事情が幾つか思い浮かんでくる。そんな中から今回は、路線バス旅ならではの「不安」にスポットを当ててみよう。
■出口のない不安
まず、鉄道旅にはないけれど、路線バス旅には付きまとうものがある。出口のない不安だ。不思議なことに鉄のレールで繋がっている乗り物は、駅にさえ辿り着けば運行ダイヤに関係なく……
……「あぁ助かった、これで抜け出せるわ」と、果てしない迷路を彷徨っている時に、出口へと続く活路への扉を開いたような心理的安心感をもたらしてくれる。
ところが道路にはそれがない。バス停に着いても、この道は自分が行きたい先まで続いていないんじゃないか? とか、本当にここバス来るの? とか、どうしても懐疑的になってしまう。
もちろんちゃんとバスは来るにせよ、バスの車両を目視するまでハラハラしっぱなしになるのは経験上事実。こればかりは気持ちの問題、「そんなの平気平気!!」と前向きに考えて解消させるしかない。
■出すものを出せない不安
もう一つの不安がトイレの問題。行く/行かないにせよ、移動中にトイレがないと猛烈な不安に襲われる人は一定数いるようで、実際「トイレないから長い時間バス乗れないんだよね」と言っていた人に会ったことがある。
ローカル区間を走る列車なら、今はトイレが付きが標準で、もし最大のピンチを迎えても対処は可能。一方で大抵の路線バスはトイレなし車両での運転であり、距離を稼ぐローカルバスなら所要時間も長め。不安になっても致し方ない。
とはいえローカル路線バスの場合、途中でトイレ休憩を挟んだり、始発/終点にトイレがある場所がかなり多いので、実際のところはそこまで身構えなくても大丈夫。
筆者も割と不安になるクチながら、ここ15年くらいの間に国内外合わせて137回旅に出て、本当に困ったことはノロ牡蠣にやられた時を除けば一度もない。
あまり緊張すると却ってトイレのお世話になる確率が上がるので、肩肘張らずにリラックスするのがコツか。それとバスに乗る数時間前に酒や茶を飲みまくったり、辛い物を食べすぎたりしないのも成功へのカギ。