毎年やってくる暑い夏……今やエアコンは不可欠な文明の利器となっている。乗り物にも空調が付いて当たり前の時代であるが、バスにエアコン(クーラー)が取り付けられ、普及するようになったのはいつ頃からだろうか?
文・写真:中山修一
(写真付き記事はバスマガジンWEBまたはベストカーWEBでご覧ください)
■なんと70年以上の歴史を持っていた!?
自動車用クーラーの発明と実用化は意外と歴史があり、世界で初めて冷房装置を搭載したバスが誕生したのは1934年のアメリカと言われている。
初のクーラー搭載バスは都市間長距離路線向けの車両で、1946年頃に同じくアメリカ・テキサス州のサンアントニオの路線バスに冷房車が投入されている。
日本が欧米に追従するのは定番の流れと言えるが、日本国内のバスに冷房を取り付ける研究が始まったのは1948年と、こちらも皮切りは結構古い。
一方で普通乗用車向けの冷房装置は1957年に試作が始まっているため、バス用のほうが9年ほど先行していたわけだ。
いち早く冷房車を営業用に使用したのは九州の西鉄と言われ、1958年に貸切バス用の車両にクーラーが搭載されていた。
その他、当時の国鉄バスも都市間中・長距離路線用のバス車両に、ごく初期の段階から冷房付きを投入し始めている。
とはいえ、1959年の時点で冷房付きバスは全国に21台しかなかく、極めて珍しい存在であったのは確かだ。
■重い腰が上がらなかった? クーラー付き路線車
初期の冷房付きバスは、ある程度長い時間乗車するのに加え、車内の密閉率が高い貸切車か長距離向けの車両のいずれか。それに対して一般路線バスの車両にクーラーを搭載するに至るまでは更に長い年月が必要だったようだ。
クーラーを載せると車両1台あたりのコストが上がってしまうのと、ドアの開け閉めが頻繁な性質から、車内の冷気がすぐに逃げて大した効果を得られない可能性などが、路線車に冷房を導入しなかった理由に考えられる。
さらに、昔はクーラー=超贅沢品という認識がごく普通にあり、乗車時間が短く運賃の安い乗り物なら、少しの間暑さを我慢すれば済むこと、のような根性論も作用していたかも知れない。
路線車に冷房が実装されたのは1970年代に入ってからだ。こちらも西鉄の路線バスが1976年に採用したのが初とされている。
しかし全国規模で見ると冷房付き路線車の普及はかなりスローで、従来の「非冷房車」も依然として製造・投入されていた。1980年代になると、ようやく路線車にも冷房車への切り替えが本格化した。
非冷房車は首都圏を中心に段階的に姿を消してゆき、1990年代には冷房車が普通の存在に取って変わった。バス用クーラーの研究がスタートして定着するまで40年以上かかったことになる。