とうとうバス運転士募集のための説明会が中止に追い込まれたようだ。もはや募集するだけではどうにもならない状況にまで至ってしまったバス運転士不足問題。傾向と対策を考えてみよう。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
(写真はすべてイメージで本文とは関係ありません)
■関東の大手事業者なのに……
テレビのニュースを見て驚愕した。関東大手のバス会社で運転士募集の説明会を開催したところ中止になったということだ。理由は「応募者ゼロでだれも来場しなかったため」だそうだ。運転士確保のために全国の事業者が四苦八苦している中で、応募者ゼロで説明会自体が中止になるのは深刻である。
地方の中小事業者ならばいざ知らず、関東大手となるとことは重大だ。ただ応募者を待つ時代はすでに終了していることを強く思わせる事例だろう。新たにバス運転士を目指す人材の確保、トラックドライバーとバス運転士間のスイッチや、現役バス運転士の移籍など、パターンはさまざまだが課題としては待遇改善であることは論を待たない。
■本当の宝はバスではなく運転士?
業界各社へ走った衝撃は相当なものだっただろう。このような説明会は主に転職希望者へ向けてのものがほとんどだ。もちろん、異業種ドライバーからの転職や他事業者からの移籍希望者も対象としているだろうが、運輸業界同士のパイの奪い合いは何の解決にもならない。
短期的には自社はそれでいいのだろうが、やはり新たに運転士を目指す人材を採用するからこそ問題解決につながる。
事業者としては利用者の低迷、燃料費の高騰で余裕がないのも事実だが、やはり運転士がいないといくらバスを保有していても文字通り「宝の持ち腐れ」になってしまう。
しかし本当の宝は「運転士」だということを再度認識する必要があるだろう。よって運転士を確保するためにはすでに使い古された言葉だが「待遇改善」しかないという結論になる。
■もはや中途半端な条件では無理なのか?
事業者は運転士募集を常時している状況だが、もはや普通免許さえ持っていれば応募可能で、正社員での採用は当たり前だ。契約社員や将来の正社員登用程度ではよほど待遇が良い条件でない限り応募はないと考えた方が良い。
しかし、ラッシュ時や繁忙期でのスポット採用もしたいのが実情なので、このあたりは法や制度の整備により高給での短期採用を並行すればよいだろう。もはや中途半端な条件では採用はできない状況になっている。
そして異業種からの転職を考えている人材がもっとも重要視するのが「生活できるかどうか」という非常に低いハードルなのだが、それすらクリアできない事業者は残念ながらどうすることもできない。
就業の前提となる大型二種免許取得や福利厚生、社員としての地位は当然に与えられなくては始まらない状況であることは間違いない。
よくあるのが「免許取得を盾に取られて悪条件下で働かなくてはならない不安」説だ。確かに大金をかけて運転士を育てて辞められては元も子もない。しかし待遇が良ければ辞めないという考え方にならなければこの悪循環は永遠に続く。
免許取得費用などは採用経費と考えなければなり手がいない現状なのだから、そんな足かせ条件は即刻撤廃すべきなのが理想だ。「辞めてもらってもいいけどウチくらい好条件はない」くらいの自信がないと騙しだましではネット社会の中での採用は難しい。