熊本のバス事業者がICカード乗車券を廃止すると発表したことで、ICカード乗車券のシステムや経済圏が瓦解するのではないかと衝撃が走った。移行期間も周知期間もなく経費圧縮のためだけに廃止すればあきらめも反発もあるだろうが、他に手はなかったのだろうか。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
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■台数が多いから経費が掛かる
この問題は、ICカード乗車券のシステム更新や新紙幣切り替えによるバス運賃箱の更新に金がかかりすぎることか出発点だ。1台当たりの金額の大小はともかく、バス側に運賃収受の機能が付いている以上はバスの台数分の運賃箱をすべて一斉に更新する必要がある。10台や20台なら問題にはならないだろうが、大規模事業者だとこたえる。
そうでなくてもバス運転士が不足して待遇を上げようと考えている中で、1円でも余計な経費が削れるのであれば一刻も早く減らしたいのは理解できる。それも沿線住民の不便を承知の上で踏み切るのだろうから相当な覚悟が必要だっただろう。
鉄道であれば、ワンマン運転で無人駅しかない路線ならば車両側に運賃収受のシステムが必要だが、そうでなければ通常は駅に改札機と券売機があればそれでよい。複数台設置するにしても駅の数だけだ。バスはそうはいかない。
■ICだけならばいっそのこと!
ある日を境にICカードや現金が使えなくなるということはこれからもあちこちで出てくるだろう。しかし鉄道や街中で電子マネーとして使えるICカードの利便性は高く、なんとか併用できないのだろうか。
たとえば、現金を扱わないのですべてのバス停にIC専用の券売機を設置して紙で二次元バーコード乗車券を発券すれば、乗客はいちいち乗車券を購入しなければ乗れない不便はあるものの使えなくなるわけではないので、まだマシなのかもしれない。
事業者側もバスの台数分ではなく、バス停の数だけなので経費は圧縮されることが考えられる。もちろんバス停対応の券売機を開発したり、電源を確保したりとそれなりの苦労はあるが、それは生みの苦労なので地域の事業者が共同して行政が補助してやればよい。
セキュリティ上の問題はないとは言わないが、現金を扱わないので飲料水の自販機よりは管理はしやすいだろう。要はIC読み取り機と運賃表とタッチパネルと印刷発行機と通信機能があればいい。二次元バーコード乗車券であれば感熱紙で構わないので、インクも磁気紙も不要だ。
■工夫が足りない
以上の提言の実現性はともかく、何とかしようという発想や工夫が足りないものと考えられる。こういうご時世なので、利用者が不便になることはある程度仕方がない面はある。
しかし、ただ「経費がかさむからやめます」では炎上のもとでしかない。この手の炎上はしばらくすると慣れてしまっておさまるものだが、悪い印象を残してまでやることなのかどうかは経営判断とはいえ考えなければならないところだろう。
これらは熊本だけの問題ではなく、このままバス事業者の苦境が続けば、背に腹は代えられないという理屈で全国に広まる恐れもあるだけに注視していく必要はある。