クルマの総合格闘技場 それがニュルだ!
欧州では、一般道や高速道路、ときに山岳路を高速度で走る機会が多い。速度無制限区間のあるアウトバーン、ワインディング、丘陵、そして長距離移動、そうした環境で求められるのは、速さだけでなく、耐久性、信頼性、コンフォート、安定性である。
ニュルはまさにその過酷な日常を模擬する試験場だ。もしそこでクリアできるなら、日々の街乗りにも、週末のロングドライブにも、未知の環境にも対応できるクルマとなる。
さらに、24時間レースなど耐久イベントも開催されることで、量産車の信頼性や長時間の安定性、ドライバー/チームの能力が試される。単なる一発の速さではなく、長時間にわたる信頼性と総合力が評価されるのである。
この意味で、「ニュル最速ラップ」は、もはやスーパーカーのお祭りというだけでは済まされず、真の意味での完成度の象徴、ひとつのステータス、それが多くのメーカー、ファン、ジャーナリストの共通認識となっていると言えるのだ。
クルマ開発で思い知らされるニュルの真価
ここで、私が実際に経験した“ニュルでの洗礼”について語ろう。それは、単なる憧れや物見遊山では到底得られない、文字どおり 身を削るような経験だった。
三菱 ランサーエボリューションVIIの開発に関与していた時に、ニュルでテストすべきだと強く進言し、実際にコースに持ち込んだ。国内のサーキットでは素晴らしいポテンシャルを発揮したランエボVIIも、ニュルでは話が別だった。
筑波サーキット最速の称号も国内仕様のギア比では、長大なストレートと高速区間での伸びが足りず、8分を切ることすら叶わなかった。それどころか、タイヤもブレーキも、そして足まわりにも不安が浮かび上がる、まさに不完全燃焼だった。
この経験を通じて痛感したのは、ニュルで戦える車とは、単に“サーキット仕様”では済まないということ。足まわり、ギア比、サスペンション、ブレーキ、タイヤ、空力バランス、そして冷間時からの挙動安定性――あらゆる要素のチューニングと総合制御が求められるのだ。
厳しいコースに同居する「やさしさ」
一方で、ニュルには“優しい面”もあった。それは、タイヤとブレーキへの過度な消耗を強いないという性質。
例えば、日本の街中とは別次元の過激な低ミュー路やアップダウン、ジャンプ、荒れた路面、それでも一周だけではタイヤが悲鳴を上げるようなことは少なかった。ニュルの1周ではタイヤが温まるのがやっと、という状況も多かったくらいだ。
また、ブレーキに関しても、長い直線と高速区間、そして比較的ゆるやかなコーナーも多いため、頻繁な強い制動を必要とせず、冷却時間も比較的取りやすい。そのため、フェードなどの極端なブレーキの破綻に見舞われにくい。こうした特徴から、「ニュルは過酷だが、クルマの“総合評価”には比較的優しい」という矛盾めいた性質を持つのだ。
これは、日本の短距離サーキットで全開アタック数周をするのとは、まるで中身が違う条件である。そして、それは量産車ベースのスポーツカーや実用車ベースのハイパフォーマンスカーにとって、極めて価値のある試金石となると確信する。



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