R32の物語は続く
――不思議な縁で、土方さんが20年乗ったR32スカイラインが私のもとへきて11年。今年3月、15回めの車検を迎えた。土方さんの頃からこのクルマの整備を担当してきた高橋さんは、荻窪店の工場長を数年間務めたのち、2020年から浜田山店の店長になっている。車検整備の受け渡しのとき、高橋さんと、土方さんの思い出をしみじみと語り合った。
旧いクルマだから、維持するにはそれなりに手間もコストもかかる。30年以上前のツインカムターボエンジンは、昨今のエコカーと比べると燃費もきわめて悪い。けれども、私はまだまだ、このスカイラインを諦める気にはなれない。
ステアリングを握るたびに土方さんや、土方さんにまつわる多くの人々の思い出が甦るし、ディーラーに行けばこの車を我が子のように見てくれる人がいる。そんな「物語」を大事にしていきたいと思うからだ。
神立尚紀 Naoki Koudachi
1963年、大阪府生まれ。日本大学藝術学部写真学科卒業。1986年より講談社「FRIDAY」専属カメラマンを務め、主に事件、政治、経済、スポーツ等の取材に従事する。1997年からフリーランスに。1995年、日本の大空を零戦が飛ぶというイベントの取材をきっかけに、零戦搭乗員150人以上、家族等関係者500人以上の貴重な証言を記録している。著書に『証言 零戦 生存率二割の戦場を生き抜いた男たち』『証言 零戦 大空で戦った最後のサムライたち』『証言 零戦 真珠湾攻撃、激戦地ラバウル、そして特攻の真実』(いずれも講談社+α文庫)、『祖父たちの零戦』(講談社文庫)、『零戦 最後の証言彜Ⅰ/Ⅱ』『撮るライカⅠ/Ⅱ』『零戦隊長 ニ〇四空飛行隊長宮野善治郎の生涯』(いずれも潮書房光人新社)、『特攻の真意 大西瀧治郎はなぜ「特攻」を命じたのか』(文春文庫)などがある。NPO法人「零戦の会」会長
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