ホンダF1からブラウン・グランプリへ、そしてメルセデスに至るという皮肉

■ティレルがホンダ・テストチームとして継続されたが、本命はBARだった

 捨てられたティレルチームはその後1年間だけホンダ・テストチームとして継続されたが、ホンダも近代的でアメリカンシステムなBARになびき、自製チームを諦めてエンジン供給という形でBARへと移っていった。つまり旧ティレルはBARのチーム購入で捨てられ、ホンダに拾われても1年でこれもBARに搾取されてしまったわけだ。

 弱小勢力が巨大勢力に押しつぶされてゆくF1的な弱肉強食社会の縮図を描いて見せたBAR。しかしこのチーム誕生の目的自体がF1ではなくビジネスオンリーであり、初期にはブリティッシュ・アメリカン・タバコから巨額の資金を調達、そして2000年に前出のホンダを手に入れ、ここでもホンダの膨大な資金を追加。さらに2005年には全株式をホンダに巨額で売却し、BARのF1ビジネスプロジェクトは天文学的金額の成功を収め終了した。

 後はホンダへと移行するも、経営的にもエンジニアリング面でも大きな成功を得る事なく、2008年、世界規模の経済恐慌で会社経営に深刻さを増した事からホンダはF1から撤退する。

■売却額はたった1ポンド。チームはそのままロス・ブラウンに譲渡された

 チームが譲渡され、ブラウン・グランプリが登場。チーム名とリーダーはロス・ブラウンであったが、基本はブラウンを含む6人の重役にチームの権利はあり、ブラウン・グランプリ発進時から既にチームの売却プランが動いていたという。ホンダ撤退を受けて搭載エンジンはメルセデスの供給を受ける。この時点でマクラーレンとの関係が悪化し始めていたメルセデスは独自のチームを模索しはじめており、メルセデスとF1の関係を失いたくない当時のF1のボス、バーニー・エクレストン等の支持もありブラウン・グランプリはメルセデスへと向きを変えていった。

 そして2009年、ホンダのエンジニアが最初のアイデアを出したといわれるダブル・ディフューザーを搭載したBGP001は、初戦からレギュレーション的に物議を醸しながらも、ダブル・ディフューザーに特化したマシンを造り上げたことで強烈なアドバンテージを持ちシーズン前半を席巻。

これがブラウン・グランプリを優位にしたダブル・ディフューザー。しかし、各チームともダブル・ディフューザーの開発を進め、なかでも特にレッドブルの戦闘力が高く、後半戦ブラウン・グランプリを苦しめた(イラスト津川哲夫)
これがブラウン・グランプリを優位にしたダブル・ディフューザー。しかし、各チームともダブル・ディフューザーの開発を進め、なかでも特にレッドブルの戦闘力が高く、後半戦ブラウン・グランプリを苦しめた(イラスト津川哲夫)

 このシステムが適法と認定されてから開発を始めた他チームが、後半戦で追いついて来るまでは勝利していたが、追いつかれると基本車体性能の高いライバルにくだされるようになってしまう。それでも何とかチャンピオンを死守しF1史の記録を作ったのだ。

■ホンダからメルセデスワークスへ。緩衝材となったブラウン・グランプリ

 ブラウン・グランプリの存在は、ホンダの後始末とその後のメルセデス・ワークス発進の緩衝材的期間を受け持つ意味もあった。実際メルセデスがワークスとしてチームを始めるのに、いきなりホンダワークスから購入するわけには行かないのは当然だろう。

 そして購入条件はやはり好成績のチームでなければ、メルセデスの経営陣や株主達がゴーサインを出すわけはない……。

 現在のメルセデスに至るこのチームの歴史は、技術論争ではなく、ビジネスと政治によるとてつもなく巨大な経済プロジェクトが渦巻き、その台風の目がブラウン・グランプリであったといったら、それはいい過ぎだと叱られるだろうか……。

TETSUO TSUGAWA
TETSU ENTERPRISE CO, LTD.

【画像ギャラリー】エンジンはメルセデス、車体はホンダRA109という奇跡の組み合わせだったブラウンGPの写真(5枚)画像ギャラリー

津川哲夫
 1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
 1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
 F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
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