【ホンダF1の軌跡】ホンダPUの欠点を克服した、ホンダジェットの技術とは?

ホンダF1は勝利を目指した実戦型に軌道修正され、経験豊富なメンバーが加わった

 トロロッソとのコラボからホンダの方向性が大きく変わった。それはターゲットがF1制覇に向けられたことだ。ホンダ第三期そして第四期とF1プロジェクトが引きずっていた建前「若いエンジニアのスキル・アップ」から、勝利を目指した実戦型に起動修正された。若いエンジニアとともに、実戦経験豊富なメンバーが加わり組織そのものが大きく動き出した。

 トロロッソとの初年度はこれまでのPUをベースに、徹底した信頼性の確立があらゆる部分で進められた。マクラーレン時代の問題点、燃焼、排気、オーバーヒート、MGU-K、そしてMGU-H、バッテリーと、ことごとく見直されていった。

トロロッソと組んだ2019年は耐久性が増してPUが壊れることがなかった。ブラジルではハミルトンを振り切りガスリーが2位表彰台を獲得し速さも示した
トロロッソと組んだ2019年は耐久性が増してPUが壊れることがなかった。ブラジルではハミルトンを振り切りガスリーが2位表彰台を獲得し速さも示した

 特に問題の多かったターボユニットと同軸上のMGU-Hは徹底的に見直されている。シャフトの振動、軸受け、潤滑、熱害対処と冷却。タービンブレードの材質や形状、コンプレッサーインペラももちろん、これに回生効率の安定向上、バッテリーとエレクトリックコントロールユニットの効率と制御、冷却……これらの開発はF1部門だけに止まらず、ホンダジェットのタービンエンジン部門のノウハウが導入され、高温・高速軸やブレード、潤滑等のノウハウがジェットエンジン部門から投入されている。

 部門同士のクロスオーバーはホンダF1的には極めて珍しいことのようで、この部分だけを見てもレッドブルコラボの第四期ホンダF1が実戦重視で、いかに勝利の方程式を造り上げてきたか解るというものだ。

MGU-Hの壊れない長いシャフトはホンダジェットの恩恵

2020年レッドブルとタッグを組んだホンダPUは、第5戦でついに14年ぶりの優勝を飾った
2020年レッドブルとタッグを組んだホンダPUは、第5戦でついに14年ぶりの優勝を飾った

 現在ホンダのMGU-Hは、ターボとコンプレッサーの中間にMGUが置かれている。そして規則上タービン・コンプレッサー、MGU-Hは同軸上で回転数も全てシンクロしなければならない。したがってその回転数は最高125,000回転にも至る。巨大な工作機械等に搭載されている大型モーターなら300,000回転も可能だが、当然ながら大きく重く、軸径も太い完全な固定型であり、F1への搭載は不可能だ。そしてMGU-Hは回生と出力を走行中常に繰り返し行っていて、細身の軸へは常に両方向へのねじり負荷が掛かり続けていることになる。

 さらにこの長いシャフトには、モーター部分でマグネットを持ったロテーターが装着されているのでマスは大きく、10万回転超えでは僅かなダイナミックバランスの変化で高周波振動を起こしてしまう。したがってシャフトと軸受け部のベアリング(メタルを使用しているはずだ)とその潤滑、MGUの冷却等には極度に繊細な処理が要求される。

 ホンダジェットのタービンエンジンのノウハウはこれらの部分に活かされているはずで、ジェットエンジンのセーフティーに関するアビエーション・スタンダードは極めて高く、安全率もF1を遥かに凌ぐ強力なものだ。

 これらのアビエーション技術がF1型の小型軽量型でも適確に働いているという。事実過去3年、ホンダジェット・インフルエンスのMGU-Hにはこれといったトラブルはほとんど出てはいないのだ。

 ホンダ内部の部門クロスオーバーはF1に限定するのではなく、これからの多様な交通手段の開発にも大きく貢献するのではないだろうか。現在の自動車メーカーに未だ漂う昭和・平成初期の空気感を自由なクロスオーバーの感覚が浄化してゆけば、2021年のF1の様に実に面白い会社になるのではないだろうか。

TETSUO TSUGAWA
TETSU ENTERPRISE CO, LTD.

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津川哲夫
 1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
 1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
 F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
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