■偶然の発見「加硫」がもたらしたもの
クルマの進化に伴い、乗り心地や耐久性、そしてより速く安全にクルマが走れるようにタイヤも進化をしてきました。
発明あるあるで「偶然」というのがありますが、タイヤの進化にも偶然が関係しています。
アメリカの発明家のグッドイヤーさんが生ゴムの欠点を解消する研究をしていたのですが、ある日ゴム製の靴を履き、偶然にもゴム部分に硫黄がかかったままストーブの前で居眠りをしてしまい、気づけば「加硫」しているという事態に……。
この加硫というのは分子レベルでの化学結合で、高温になってもベタつかず、力を加えて引っ張っても元に戻るという素晴らしい発見だったんですね~。ゴムは加硫していない状態ですと引っ張ってもちぎれるだけで使い物にはなりません。
ゴムに硫黄を加えると、分子レベルで架橋っていう反応が起きます。これは読んで字のごとく分子同士の「橋を架ける」ことで、硫黄によってゴム同士が繋がって、引っ張ってもちぎれない弾性のあるゴムができるのです。
ちなみにこのグッドイヤーさんはあのタイヤメーカーのグッドイヤーとは直接的な関係はありませんが、社名の由来になっているようですよ。
■BFタイヤが発明したカーボンブラック
加硫によってゴムが強化されて暫くはタイヤの色は黒くなく、輪ゴムのようなアメ色だったようなのですが、クルマの進化とともにタイヤもさらに進化を遂げます。
輪ゴムは加硫のみのゴム製品で、伸ばすと縮まるという特性を利用しているのですが、古くなったり直射日光に当てると、あまり力を加えなくても切れますよね? クルマのタイヤがすぐに劣化するのは困りものです。
そこで、加硫ゴムを強くする補強材がカーボンブラックなんです。まぁニホンゴでいうならば炭です。加硫ゴムに炭を加えることで飛躍的にゴムが強くなり、紫外線によるゴムへのダメージにも効果ありでございます。カーボンブラックの使用量はタイヤ重量の約3割で、トレッドの耐久性は約10倍向上するようです。
ちなみに加硫ゴムをカーボンブラックで補強するっていうのを発明、実用化したのはアメリカのBFグッドリッチ社で、1910年、日本は明治43年のことでした。以来、「タイヤは黒い!」というイメージができあがり、現代人にすり込まれています。
トレッドにはタイヤの顔というべきパターンが刻まれております。こちらはコンチネンタル社さんが業界初で、1904年の事らしいですから、タイヤがまだ黒くなかった頃でしょうかね。タイヤは滑らかで喰い付きの良い舗装路や晴れの日だけ走れば良いというわけにはいきません。
滑りやすい路面でトラクション(駆動力や制動力)を確保し、路面とタイヤに水膜ができてスリップしないように、トレッドパターンにて排水を行なうのです。タイヤのトレッドゴムに求められる性能は、クルマの進化と共に要求も高まります。
■タイヤ性能と燃費性能を両立させる現代のタイヤ
ゴムの特性上、温度が上がると柔らかくなり路面への喰い付きは良くなるんですが、その反面摩耗は早くなる傾向にあります。喰い付きが良いということは抵抗が大きくなるということで、燃費も下がっていきます。
逆に温度が低くなった場合にはゴムは硬くなり喰い付きは悪くなります。路面への喰い付きの良さと燃費向上は相反する性能を要求しているわけです。
これは、昔の一家の大黒柱的存在のお父さんのようにたくさん働いて休みの日は寝て過ごしますよって感じから、無駄な働き方はせず休日には家族サービスを……という世のお父様方へのハードな(?)要求が、現代のタイヤにも求められているようなものです。
そんなお父様方が聖人君子になるには何を与えれば良いかは世界中で模索されているようですが、タイヤの場合ですとシリカというものを加えます。シリカは二酸化ケイ素によって構成される物質で石の細かい粉なんですね。
シリカが入っている製品の代表例がガラス、シリカゲル、光ファイバーっていったところでしょうか。シリカをゴムに混ぜ込むのは化学的にすごく難しい技術なようですが、シリカが入ることにより、転がり抵抗を小さくしながら、ゴムが硬くなるのを抑え路面に密着できるので、雨天時の制動性能は落とさず低燃費なトレッドゴムになるのです。
タイヤの摩耗末期で溝が浅くなっている場合も、新品に比べて排水能力が落ちて路面への密着度は劣るものの、シリカの配合によって硬化しにくくなり、さながらシニアクラスのアスリートのごとく歳を感じさせないモノになっているのではないでしょうか?
タイヤの性能の表現で「コンパウンドが違う」なんて聞いたことあると思いますが、コンパウンドは「混合物・合成物」っていう意味で、各材料を配合する比率のことです。
タイヤのゴムでいうならば硫黄やシリカの量で硬さが変わってきます。具体的な配合はわかりませんが、高速道路等の舗装路主体で低燃費重視の場合と、非舗装路など現場系等では求められる性能は変わってきますので、トレッドパターンに加えて使用するゴムのコンパウンドも変えているようです。
最後にゴムの進化というわけではないのですが、廃タイヤの処理、利用法です。近年では砕いてさまざまな工場の燃料になったり、舗装材、緩衝材、ゴムのシート、あとはDIY等でプランターにしたり、家具、遊具の製作などがあります。
まだ研究段階のようなのですがタイヤで使用した合成ゴムを分解して生ゴムに戻す技術が発見され、近い将来天然ゴム(生ゴム)を再生する日も近いようですよ。以前からタイヤを分解するバクテリアは見つかっていましたが、天然ゴム成分まで痛めてしまい、ゴムを再生するには至らなかったようです。
ところが日本で発見されたシロカイメンタケ、シハイタケは加硫されたタイヤのゴムを「脱硫」することで天然ゴムを痛めることなくリサイクルできるというのです。素晴らしい発見でございます。是非とも早期に実現していただきたいものですね。
以上、タイヤの進化の一部分であるゴムについて、大雑把に紹介してきましたがいかがでしたでしょうか?
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