新型クラウンは若返りに成功したのか?トヨタが最重要課題に掲げた戦略の成否

2018年6月にデビューした第15代目クラウンには使命があった。

それは「高齢化するクラウンの主要購買層を若返らせる」というもので、新型は日本で最も伝統のある車名を背負いながらも低く流麗なフォルムを採用し、TVCMも若い世代を意識した挑戦的なイメージで展開。運転特性も(それまでのアメリカ車のようなテイストを一新し)現代風の操る楽しさを押し出したものに転換、発表日はカローラスポーツと同じ日に設定して新型クラウンが話題の「コネクティッド」に適していることをアピールした。あのトヨタが会社をあげてクラウンの若返りを狙っていた。

そのクラウン登場から9カ月、はたして15代目クラウンのユーザーは若返ったのか? 毎日新車ディーラーを回り、営業マンの「生の声」を取材する流通ジャーナリストの遠藤徹氏に、クラウンの現状を調査してもらった。

文:遠藤徹


■売れ行きは好調……しかし

現行クラウンは2018年6月に15代目へとフルモデルチェンジした。

クラウンといえば、歴代モデルの多くが50代から60代のシニア層のユーザーが中心で、職業的には法人、個人事業者、高額所得サラリーマンがオーナーだった。

これを、15代目の新型からは30代から40代の若い層にも浸透すべく、若返りを目指したコンセプトで開発したのが大きな特徴だった。

国産高級サルーンの未来を背負って登場した第15代目クラウン。販売台数は好調なようだが…

売れ行きを見てみると、2019年2月までの登録推移は月間4500~7000台規模。

前年実績に対しては倍増と、好調な売れ行きとなっている。

しかしながら、首都圏の扱い店であるトヨタ店、トヨペット店(東京地区)の営業担当者に取材してみると、

「現行モデルの発売当初は若者向けを主として仕立てたアスリートの後継グレードであるRSがよく売れ、シリーズ全体の半分以上を占めていました。この時点では若返りに成功したと思えたんです。ところが時が経過するにつれてRSの販売比率が頭打ちになり、最近はロイヤルの後継であるSやGのほうが売れ行きが良くなり、中心ユーザーは50代以降に逆戻りしています」

とコメントしている。

■若者向けに「アスリート」を設定して20年

クラウンの近年の動向を振り返ってみると、1999年に登場した11代目から、クラウンは若者向けを強く意識した「アスリート」を設定。デザイン、足回りの強化などでスポーティに仕立てて売り出しており、そのいっぽうで高品質、ソフトな足回りで静な走りの「ロイヤル」シリーズを設定し、モデルの性格を区分けしていた。

1999年に登場した11代目クラウンアスリート。当時は日産セドリック/グロリアと火花を散らすライバル対決を繰り広げていた

それ以降、新型が投入されるたびに発売当初はアスリートの販売比率が半分以上を占めるものの、その後はアスリート比率が徐々にダウンし、次の世代交代が聞こえてきた頃には20%以下に後退するといったパターンが繰り返されてきた。

今回のフルモデルチェンジではこうした轍を踏まないよう、アスリート、ロイヤルのシリーズ分けを解消して、RS、S、Gとグレード体系を一新。最上級モデルに位置づけられていた「マジェスタ」も廃止した。

歴代クラウンがベンチマークとしていた、アメリカ車のようなゆったりとしたハンドリングではなく、ドイツ車のようなシャキッとした走りを身に着けた新型クラウン

エクステリアデザインも若者を意識したスタイリッシュでスポーティな仕立てとし、パワーユニットも走りの2Lターボ、省燃費で走行性も向上させた2.5&3.5両ハイブリッドを搭載。安心パッケージの「トヨタセーフティセンス」や話題のコネクティッド技術も満載し、最新のテクノロジーを盛り込みつつ、これらを強力な「売り」としてアピールしている。

「いまのクラウンはユーザーと一緒にどんどん歳をとってしまっている。クラウンは老人御用達というイメージが強く、このままでは先細りが目に見えている。だからこそ、これまでのクラウンのイメージを大きく刷新するつもりで開発した」

と、現行型クラウンの発売直後に実施された試乗会で、担当エンジニアが熱く語っていたのを思い出す。

クラウンは日本国内専売車種だ。このモデルが売れるか売れないかで、メーカーは今後、日本国内専売車に力を入れるかどうかを判断する重要な車種といえる。そのクラウンが最重要項目として掲げた「若返り」に成功していないというのは、日本の自動車産業全体にとって、あまりいいニュースではない。

低く流麗なボディフォルムを持ち、あくまでクラウンらしい王道のテイストを残しながらも、アウディやBMWのようなデザインを取り入れた

■クラウンを取り巻く環境が大きく変化

トヨタとクラウンが全力で目指しても、ターゲットユーザーの若返りに成功していないのには、いくつか理由が考えられる。

ひとつはクラウンの持つ伝統的なコンセプトが若者にとって新しさを感じさせない印象があることだが、もっと根本的な事情が大きい。

価格だ。

現行型クラウンは最も安いグレード(2Lターボ「B」)でも460万6200円であり、現行モデルの中心グレード(2.5Lハイブリッド「RS」)だと541万6200円する。保険料や諸費用を考えると乗り出し約600万円に達する。

この金額を現代の若者に「払ってくれ」と言うのは酷だろう。

もちろんなかには経済的に余裕のある若者だっているだろうが、それなら押し出しが強く室内の広いアルファード/ヴェルファイア(クラウンとほぼ同額だ)も候補にあがるだろうし、流行りのSUVであれば、ハリアーやC-HRがクラウンの2/3の価格、下手をすれば半額程度で買えてしまう。

30年前であればクラウンを買っていたであろうユーザー層の多くが、SUVや輸入車、ミニバンへ流れている。その流入先の筆頭が(くしくも同門トヨタの)アルファード/ヴェルファイアだろう

さらにいえば、どうせ高額のセダンを購入するならより新鮮さを感じるレクサスESやLSを選ぶユーザーも増えているだろう。他メーカーの国産車にはクラウンの敵はもはや存在しないが、輸入車のベンツEクラス、BMW5シリーズ、アウディA4なども狙える価格帯であり、事実、販売店に取材すると現行モデルの商談はベンツCクラス、BMW3シリーズからの乗り換えや、競合するケースも多いようだ。

こうした社会環境の変化や、ライバル車種の動向を考えると、クラウンがかつてのように、30~40代から「いつかはクラウンに乗りたい」と憧れられたり、それを受けて月間1万台以上売れるようになるとは考えづらい。

クラウンが「たくさんある選択肢のなかのひとつ」に収まったことは、やや寂しいことではあるが前向きにとらえたい

とはいえもちろん、だからといっていたずらに悲観的になる必要はない。

放っておいたらますます高齢化するのは目に見えているユーザー層を、新型クラウンはデザインや機能を一新して「現状で食い止めている」ともいえる。

なによりクラウンのようなサイズの国産FRサルーンはあらゆる年齢層にとって選択肢として重要だし、モデルとしてそれを維持し続けるために、メルセデスベンツやBMWやアウディに対抗できる走行性能や快適装備やデザインを追求し続けるべきだ。

だからこそ、「クラウンは若返りに成功したか?」という問いには、「いま全力で踏みとどまっている最中」と回答すべきだろう。

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