小さくても上質! トヨタ iQが挑んだ理想と現実 【偉大な生産終了車】

■高評価を与えられながら、なぜ一代限りに?

 いちおう2008年から2016年までの長きにわたって生産はされたものの、結論としてアクアの2カ月分の販売台数とほぼ同じ3万1333台しか売れなかったトヨタiQ。

 その敗因は結局のところ、「理想が現実に負けた」ということになると思います。

 トヨタiQの理想というか理念には、素晴らしいものがありました。

 大きめな車に人や荷物が満載状態になっていることなど、実はほとんどない。であるならばミニマムなサイズの、それでいてすべてにおいて「上質」な車を提供できれば、人々の移動環境は変化するはず。

デザインには、巻き貝や波紋などを基に造られた数理モデルを用い、自然界の造形美を活かした線や面が内外装のデザインに採用された

 そしてその結果として人類社会のCO2は削減され、交通渋滞も緩和できるだろう……というのが、おそらくはトヨタiQの開発理念であったはずです。

 それはそれで結構ですが、その理念は大衆の心にはあまり刺さりませんでした。なぜならば、日本にはすでに「軽自動車」があったからです。

 「かなり高効率なパッケージングで燃費も良く、税金や整備費用の面でも有利な軽自動車がすでにあるんだから……それでいいじゃん?」という身も蓋もない「現実」を、トヨタiQという「理想」は打ち破ることができませんでした。

 またトヨタiQには、そんな現実を打ち破るだけの実力がなかった……というのも酷な言い方ではありますが、真実でしょう。

トランスミッション構造を変更しエンジンに対してタイヤ位置を前に、またギヤボックスの上方配置、燃料タンクをフラット化し床下に搭載するなどの手法を駆使し、超高効率パッケージを実現した

 「ディファレンシャルギアを反転して前方に配置!」みたいなマニアックな工夫がされているiQのパッケージングは、車マニアから見ると称賛に値する部分が多いものです。

 しかし「実際に乗る人」にしてみれば、そんなのはどうでもいい話でした。

 自分のお金を出して買う人からすれば、iQは「ヴィッツより極端に狭くて荷物もろくに載せられないのに、ヴィッツより高い車(で、乗り心地もイマイチ)」でしかなかったのです。

 しかしまあそんな「チャレンジ」も、トヨタのような超勝ち組企業だからこそできたことです。「iQ的な車を作って何年も売ってみる!」というような挑戦は、微妙な規模の自動車メーカーではとてもじゃないけどできないでしょう。

 「次の時代を担う何かステキなこと」というのは、挑戦と失敗の繰り返しの中からしか生まれません。その意味ではトヨタiQの挑戦(と失敗)にも、何らかの意味と価値はあったはずなのです。

■トヨタiQ 主要諸元
・全長×全幅×全高:2985mm×1680mm×1500mm
・ホイールベース:2000mm
・車重:890kg
・エンジン:直列3気筒DOHC、996cc
・最高出力:68ps/6000rpm
・最大トルク:9.2kgm/4800rpm
・燃費:23.0km/L(10・15モード)
・価格:150万円(2008年式100G)

【画像ギャラリー】 デビュー当時のベストカー試乗の様子からトヨタ iQをチェック!!

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