クルマが直面している問題は数多く、常に「安全」や「環境」、「エネルギー」といった問題への対応を迫られている。そして1990年代半ば以降は快適性や使用性にもユーザーニーズが高まった。これとともに広がっていったのがユニバーサルデザインという考え方だ。トヨタが積極的に実践したこのユニバーサルデザインを使ったクルマは現行モデルの作り込みにも一役買っていた!!
文/佐々木 亘:写真/ベストカー編集部
【画像ギャラリー】2000年前後にこのクオリティってヤバくない!? 流石トヨタって感じよね(9枚)画像ギャラリーバリアフリーとユニバーサルデザインって何が違うの?
日本では混同されることの多い、バリアフリーとユニバーサルデザイン。ユニバーサルデザインには「年齢や能力、状況などに関わらず、デザインの最初から、できるだけ多くの人が利用可能にすること」というコンセプトがある。
バリアフリーは、利用者を考慮せずに作って生じたバリア(障壁)を「あとから取り除く」という考え方。ユニバーサルデザインは、根本的に障壁が生じないようなデザインのことを指すのだ。
すなわちユニバーサルデザインは、快適性や使用性を享受できるものであり、知らず知らずのうちに、私たちの生活の中に溶け込んでしまっているものなのだ。
初代ラウムからスタートしたトヨタのユニバーサルデザイン
1997年に登場した初代ラウムは、トヨタがユニバーサルデザインの考え方を実践してデザインした初めてのクルマだ。
ボディ全長に対するホイールベースの比率を高め、全高やシート着座位置を高くして乗降性を改善。広い視界の確保も図られた。この設計が評価され、ラウムは当時の通産省からグッドデザイン賞のユニバーサルデザイン賞の第1回受賞者に選ばれている。
その後もトヨタのユニバーサルデザインは終わらない。初代プリウスでは、新開発プラットフォームになったため、ユニバーサルデザインを本格的に取り入れた。視線移動が少ないセンターメーターなどは、ユニバーサルデザインの考え方から生まれている。
その後に登場した2代目ラウムは、一つ一つのデザインをユニバーサルデザインで考えた。乗降・空間・快適・運転・安全・環境の各課題に対し、ユニバーサルデザインを通して答えを出している。
センターピラーレスのパノラマオープンドアや様々なアシストグリップ、わかりやすいセンターメーターにエコプラスチックの採用など、これらの技術は現代にも活きているものが多い。
ポルテとプリウスを身近にしたのもユニバーサルデザイン
ラウムに搭載された助手席タンブルシートも、ユニバーサルデザインの考え方から生まれている。この機能を十二分に活用したクルマがポルテだ。
ポルテもユニバーサルデザインの塊のようなクルマであり、乗る人・使う人にやさしい。こうしたデザインの源流は、現行のシエンタやノア・ヴォクシーなどでも感じることができる。
また面白かったのはラウムで採用された楕円ステアリングホイールだ。その効果は、メーターの視認性が上がり、運転席の乗降性も高くなるというもの。
このステアリングは2・3代目プリウスにも採用された。先進性のあるコクピットにピッタリの装備だったが、当時の評論家陣からはあまり良い反応を得られず、4代目で円形ステアリングに戻している。
慣れていない形が故の異物感が先に立ったのだろう。しかし、楕円ステアリングは慣れてしまえば円形よりも操作しやすく、ステアリングを操作した量もわかりやすい。
筆者は12年以上プリウスの楕円ステアリングを使っていて、通常の円形ステアリングよりも多くの利があると思っている。普及しなかったことが残念でならないし、また復活してほしいデザインの一つだ。
既にトヨタは、表立って「ユニバーサルデザインです」言わなくてもいいレベルまで、各車にユニバーサルデザインを溶け込ませた。ジャパンタクシーに乗れば分かるが、ユニバーサルデザインは、トヨタの気遣いというレベルにまで昇華している。
ユニバーサルデザインは、クルマをもっと快適に楽しくしてくれるもの。とても身近で関係が深い存在であると覚えておきたい。
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