もっと「スポットライト」の当たる現場に!
現在一級自動車整備士を持つ人の多くは自動車整備を教える学校の先生、販売会社のインストラクターと言った教育担当者で、実際にお客様のクルマを整備する人はほんのひと握りだと聞くが、どこかでその流れも変わっていくだろう。
とは言っても、その前にシッカリと種まきをしておく必要はある。国土交通省は自動車整備の定着と育成を後押しすべく、整備事業者向けに「働きやすい・働きがいのある職場づくりに向けたガイドライン」を作成。目指すべき職場のための4つの要素として、多様な働き方/円滑なコミュニケーション/人材開発の支援/能力に応じた待遇を挙げている。更に整備事業者が企業や顧客の自宅を訪問し「特定整備」を可能にする規制の緩和など様々な改善策を進めている。
ただ、これだけではまだまだ足りず……。では、どうしたらいいのか? 筆者は裏方である自動車整備士に“スポットライト”を当てる場を作ること、さらに自分を成長させる目標となる場を作る必要があると考える。その突破口の1つがモータースポーツの活用だ。
昨今、日本の自動車メーカーはモータースポーツに積極的に参戦を行なうが、その目的は人とクルマを鍛えるためだ。それは自動車を開発するエンジニアだけでなく、自動車整備士(=メカニック)にも当てはまる。
【画像ギャラリー】ディーラーメカニックの活躍でニュルクラス優勝したWRXはこちら!(9枚)画像ギャラリーレースの現場でも評価が高い「デメカ」の仕事
実はそのような活動を古くから行なっているのがスバルである。古くはWRC、近年ではニュル24時間に参戦する際に、マシンのサポートのために全国のスバルディーラーから選抜された「ディーラーメカニック(通称:デメカ)」が派遣されている。これまで400人近いメカニックが世界の舞台で活躍している。
筆者はニュル24時間で何度もデメカの仕事を拝見させてもらったことがあるが 現地でのテキパキとした作業やチームワークを見ると、他のプロチームのそれとほとんど変わらない。なぜ、それができるのか? その一人に、筆者が以前スバル車を所有していた時に担当だったメカニックがいたのだが、その時のことを振り返ってもらった。
「もちろん自分が出来ることを精いっぱいやってチームに貢献できるように頑張るだけですが、チームワークに関しては日々の業務でも必要なことで、普段から鍛えられています。それはどのディーラーでも一緒なので、各拠点のメカニックが集まってもまったく問題ありません」
「作業も時間内に『素早く/正確/確実』に行ない、安全に走らせることに関しては、普段の作業もピット作業も変わりません。だた、ニュルのレースカーは量産車よりも作業しやすい工夫がしてあるのが興味深かったです」
クルマと過ごすには整備士の力が欠かせない!
実際の作業はピット時のタイヤ交換やブレーキ交換、さらには突発的な作業のサポートなど……つまり全部だ。ちなみにレース途中のブレーキ交換は、他のレースメカニック以上の動きに現地メディアから歓声が出たほど。また、突発的なトラブルの時も冷静かつ確実に作業を行なっていた姿は長年チームを組んできたかのような印象すら受けた。
「ニュル24時間のメカニックに選ばれたことがゴールではなく、まだまだ自分を伸ばせる部分があることを実感しました。今後も自分自身を磨いていろいろなことに挑戦したいです。また、この経験を若いメカニックに伝えることで、彼らがニュルを目指し技術も知識を身につけてくれる流れが出来ると嬉しいです。それがディーラーメカニック全体のスキルアップに繋がり、さらにお客さまに安心してもらえると思っています」
ちなみにデメカの活躍は販売会社内だけでなくユーザーにもしっかりと伝えられおり、何と「このメカニックに整備をお願いしたい」と言う“指名”も受けるそうだ。
最近では自動車整備士を志す自動車大学校の学生が、授業の一環としてモータースポーツに関わるケースも増えている。どちらもレースという極限状態をリアルに経験することで、クルマの整備の重要性をより深く理解、その結果、自分の仕事に対して“誇り”を持つようになる。
自動車整備士の待遇改善にはもちろん“お金”や“働き方”も大事だが、まずは我々クルマを使用するユーザーが自動車整備士の仕事をシッカリと理解し、そのおかげで安心・安全なカーライフを送れていると言う事実を、肝に銘じるべきだと思う。
【画像ギャラリー】ディーラーメカニックの活躍でニュルクラス優勝したWRXはこちら!(9枚)画像ギャラリー
コメント
コメントの使い方