非難囂々だったけど…R32GT-R「EV」がATだったあえての理由と狙い

非難囂々だったけど…R32GT-R「EV」がATだったあえての理由と狙い

 2025年1月に開催された東京オートサロン2025で、日産が出展した「R32 GT-R EVコンバージョン」。名車であるR32GT-RをBEV化したコンセプトモデルだが、SNSでは賛否両論(というより非難)を浴びている。トヨタが水素エンジン車とBEVにコンバートしたAE86では、5速マニュアルミッションをそのまま残していたのに対し、R32GT-R EVは、まさかのAT車だったからだ。

 ただ、AT車として仕上げられたのには、R32GT-Rが好きだからこその理由があったようだ。開発責任者に取材した。

文:吉川賢一/写真:NISSAN、エムスリープロダクション

【画像ギャラリー】このクルマの運転の楽しさは電動化の時代に再現できるか!?? 日産R32型スカイラインGT-R(12枚)画像ギャラリー

名機のRB26DETTを降ろしただけでも酷く叩かれたのに…

 R32GT-R EV化プロジェクトが日産の公式SNSで明らかになったのは2023年の3月のことだ。その2か月前に開催された東京オートサロン2023では、トヨタが「AE86 H2 Concept(水素エンジン車)」と「AE86 BEV Concept(電気じどう車)」を出展していたこともあり、「日産もか!!」とR32 GT-Rファン諸氏におかれては、大いに期待していたことだろう。

 あれから2年弱が経ち、進捗を伝える日産公式の投稿も絶え絶えになっていた矢先に公開となったわけだが、登場したR32EVは、パドルシフトでシフトチェンジをするセミAT。オリジナルの5速MTシフトノブに似せてつくられてはいたが、あくまでシフターの中身はR-R-N-D配置だという。名機のRB26DETTエンジンを降ろしただけでも酷く叩かれたのに、ましてやAT車になってしまったことで、「こんなのGT-Rではない」と、がっかりしたファンは少なくはなかったようだ。

東京オートサロン2025に展示されたR32EV。周囲は人だかりの山で、R32EVへの関心度の高さが伺えた
東京オートサロン2025に展示されたR32EV。周囲は人だかりの山で、R32EVへの関心度の高さが伺えた

ただ、R32EVは、ドライビングプレジャーをデジタルで再現することが目的だった

 筆者もてっきりMTでつくられるものと考えていたので、AT車だと聞いて少なからず残念に思っていた。そこで、R32EV活動の開発責任者である、日産自動車パワートレインシステム・エキスパートリーダー 平工良三氏に、ATでつくられた理由について尋ねた。ちなみに平工氏の専門は、エンジンの出力をタイヤへ伝えるドライブトレイン関連であり、e-4ORCE開発も担当した駆動系のエキスパートエンジニアだ。当然ながらトランスミッションに関してもプロフェッショナルである。

 平工氏は「社内からも色々と言われましたが…」と苦笑いしながら、「R32EV活動は、昔のクルマの運転の楽しさを今後に伝えていくため、ドライビングプレジャーをデジタルで再現することが目的であるため、当初からMTでつくることは構想になかった」という。

 平工氏自身もR32GT-Rが大好きで、若いころからR32GT-Rの運転の楽しさを存分に味わってきたそうで、「いまはR32GT-Rよりも速いクルマがたくさんある。でもR32GT-Rには絶対的な速さがなくとも運転が楽しいという「味」があった。この味を電動車でどこまで再現できるかにチャレンジしたいと考えた」という。

 運転の「味」を再現するための具体的な方策としては、MT操作時の変速ショックに着目したという。「現代のクルマは操作ミスをしてもクルマ側がカバーしてくれるのでストレスフリーでそれも楽しいのですが、昔のクルマは、シフトチェンジのときにエンジン回転数の繋がりを考え、きちんと運転操作をしないとギクシャクした動きになるという難しさがありました。その難しさを克服できたときが、運転の楽しさだと考えました」(平工氏)。

 MTがあると操作すること自体が「楽しさ」と強く結びついてしまい、「楽しさ」をデジタルで再現するという目的が薄れてしまう。R32EVは、「R32 GT-RのBEVコンバート」ではなくて、デジタルによる再現のための検証車という位置づけであり、その目的を達成するため、AT車でつくられたのだ。

オリジナルの5速MTのシフトレバーに近いデザインだが、R-P-N-DタイプのAT車となっているR32EV
オリジナルの5速MTのシフトレバーに近いデザインだが、R-P-N-DタイプのAT車となっているR32EV

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