国産最高級車と言えば何を思い浮かべるだろうか。この市場の代表格はトヨタ センチュリーであろう。かつてはこの市場に日産がプレジデントを投入していたが、三菱もここへ参入していたことを知る人は、そう多くないはず。三菱渾身の黒塗りセダン、超高級車のディグニティを振り返る。
文:佐々木 亘/画像:三菱自動車、トヨタ、日産、ベストカーWeb編集部
【画像ギャラリー】え、国産ヘビー級GPでも開催してたんですか!? デカイは正義! こいつが国産リムジンの本格派ディグニティだ!(15枚)画像ギャラリー国産車唯一の本格リムジン?
2000年の2月に登場したディグニティは、センチュリーやプレジデントの対抗車種として登場した、三菱最高峰のショーファーカーである。同時期に発売したプラウディアの全長を285mm伸ばしたクルマで、当時は「国産車唯一の本格リムジン」と謳われていたほどだ。発売当時の車両本体価格は999万円である。
生産には1台ずつ丁寧に作り込む手作りの工程が多く取り入れられ、厳しい品質管理のために専任の作業スタッフが選出されていた。1台ごとに、塗装・組み立て・検査の各工程の作業履歴がまとめられたヒストリーブックが作られ、保管されていたほどだ。
生産時には、お客様の大切な1台を意識するため、オーナーの名前を掲示していたという。もちろん、量産ではなく受注生産が行われた。
常識外れのFFレイアウトだが後席の広さを考えればこれが良い
商品コンセプトは「後席乗員の方への徹底したおもてなし」であり、その後席はスーパーエグゼクティブシートシステム」と名付けられ、国産車最大級の広さを誇った。高級車としては珍しいFFセダンだったことも、特徴の1つに挙げられるだろう。
プラウディアよりも後席の足元スペースが250mm伸ばされ、その影響でBピラーが非常に太い。太いBピラーの室内側には、デコレーションライティングやマガジンラックが設けられている。セダンながら、オーバヘッドコンソールにリアエアコンの吹き出し口があるのも珍しい(ミニバンでよく見る装備)。
シートは本革が標準で、オプションにシャガードモケット生地を選択できた。また後席には、レッグサポート付きの電動リクライニングシートが用意されている。助手席シートは電動で前傾し、シート背面が後席側に開くことで足置きが登場した。これで一般的なミニバンのオットマンよりも、長い足置きが完成するのだ。
後席は2名乗車で、振動吸収性に優れたシート構造や、マッサージ機能を意識したシートバイブレーターやシートヒーターを備える。前席の間には、モニターやカップホルダー組み込んだタワー型フロアコンソールを設け、FFならではの圧倒的な室内空間の広さで、センチュリーやプレジデントに勝負を仕掛けたのだ。
わずか59台の超希少車になる
エンジンは初代プラウディアにも搭載された4.5LのV型8気筒GDIエンジン。その静粛性と低振動性には定評があった。トランスミッションにはスポーツモード付5ATが組み合わせられる。
リムジン型としては異例のFF駆動や、ディグニティ発売後に発覚した三菱のリコール隠し問題があり、販売は低迷。わずか1年半で販売に幕を下ろすこととなり、総生産台数はわずか59台。現代においては、一目拝めただけでご利益がありそうなほど、希少な存在となっている。
ディグニティの車名は2012年に、日産シーマのOEM供給で復活するが、2016年に販売を終え、現在の三菱はセダンの生産すら行わなくなってしまった。
今やセンチュリーしか残っていない、この市場。三菱の国産最高級車市場への挑戦は、実にチャレンジをし続ける三菱らしさの詰まった行動に思える。
アウトランダー然り、デリカミニ然り、挑戦が実を結び、大きな成果につながることも。センチュリーの独占状態となっているショーファーカー市場に、また風穴を開けるのは三菱かもしれない。これからも、三菱らしい挑戦の数々に期待しよう。


















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