時代に翻弄された短命車!? ホンダ アスコットイノーバの流転【偉大な生産終了車】

 毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るその影で、ひっそりと姿を消す車もある。

 時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの、市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。

 しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。

 訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はホンダ アスコットイノーバ(1992-1996)をご紹介します。

【画像ギャラリー】あと4年早く登場していれば!? アスコットイノーバの姿をギャラリーでチェック!!

文:伊達軍曹/写真:HONDA


■最上級セダン アスコットに流麗なデザインとスポーティさをプラス

 1985年から2006年まで存在したホンダのディーラー網「プリモ店」の最上級セダンであったホンダ アスコット。

 そのさらなる上位スポーティモデルとして1992年に投入されたものの、鳴かず飛ばずの短命車種として終わってしまった流麗な4ドアハードトップ。それがホンダ アスコットイノーバです。

ラインナップは2.0i、2.0Si、2.3Siを中心とした全5種。フォグライト内蔵の大型ヘッドライト、ボディと一体感のある大型バンパー、低めの車高が存在感を演出

 アスコットイノーバのベースとなったのは欧州市場向けのアコードで、これは当時ホンダと提携関係にあった英国ローバー社との共同開発で生まれたモデルでした。

 アスコットイノーバの2720mmというホイールベースはアコード/アスコットと同一でしたが、新車当時のプレスリリースによれば「流れるような美しさ」を目指したというアスコットイノーバは、全長4670mmに対して1380mmという低めな全高を採用。

 それに加えてグラスエリアの広いサッシュレスドア構造と、ローノーズ&ハイデッキなウエッジシェイプ(くさび形)も採用。

磨き込まれた流麗な曲面、大きなグラスエリアで、「塊感」を際だたせた

 これらの相乗効果によりアスコットイノーバは確かに、当時のホンダがうたっていたとおりの「高質なつくりと快適な乗り心地の上級セダン『アスコット』に、流れるような美しさと快適な居住空間を融合させた4ドアハードトップ」に仕上がっていました。

 エンジンは2L SOHCと2L DOHCのほか、電子制御式複合エンジンマウントや高剛性シリンダーブロックなどを採用した2.3LのDOHCも用意。

 サスペンションは前後とも凝ったダブルウィッシュボーン式で、舵角応動タイプの4WSやトランスミッション内蔵タイプのビスカスカップリング式LSDの装備車も設定しました。

 これらによりアスコットイノーバは、ただ流麗なフォルムを誇るだけの車ではなく「スポーティな走りも可能な4ドアハードトップであること」を強く訴求したのです。

 しかしながら販売台数は、前述のとおり「鳴かず飛ばず」といった感じのまま推移しました。

 その結果、1992年3月に登場したアスコットイノーバでしたが、1996年12月には早くも販売を終了。わずか3年9カ月という短い「生涯」を終えることになりました。

■バブル末期の只中に生まれたモデルの悲運

 ホンダ アスコットイノーバがわずか3年9カ月という短命で、しかも1代限りで終わってしまった理由。

 それはもちろんさまざまな事情が複雑にからみあった結果ですが、結局のところは「タイミングが悪かった」ということになるでしょう。

グラスエリアの広いサッシュレスドア(窓枠のない)構造で、クリーンな視界と解放感を実現し、快適な空間を確保

 1992年3月に発売されたアスコットイノーバの開発計画がいつ頃スタートしたのか、筆者は知りません。しかしそれはおそらく1980年代後半か、末頃だったはずです。

 1980年代後半は、アスコットイノーバ的な車=ちょっとスポーティでちょっと高級なセダンがよく売れていました。そのため、アスコットイノーバの開発計画自体に罪はありません。

 しかしご存じのとおり日経平均株価は1989年末の3万8915円87銭をピークに暴落へと転じ、翌1990年10月には半値近くにまでなっています。

 今にして思えばこの時点でバブルは崩壊していました。しかし当時の人々はまだまだけっこう浮かれていて、1991年にオープンしたディスコ「ジュリアナ東京」ではボディコンのお姉さんたちが夜な夜な原色の扇を振りながらお立ち台で踊り狂っていたものです。

 そんな時代背景のなか1992年3月、ホンダ アスコットイノーバは満を持して発売されたわけですが、その後、いわゆるバブルの本格的な崩壊が始まってしまいます。

 そうなると人間は守りに入りますので、アスコットイノーバのような「流麗で高級な感じ」をウリにするセダンではなく、「経済的である」「1台でいろいろな用途に使える」みたいな車が注目されることになります。

 となればアスコットイノーバに限らず既存の4ドアハードトップやスペシャリティカーも全般的に苦戦するわけですが、とりわけ1992年に「今さら?」という感じで登場したアスコットイノーバは圧倒的に不利な状況にありました。

 発売直後から同門のシビック(こちらは経済的な小型車)に押されていたアスコットイノーバでしたが、1994年に初代ホンダ オデッセイが登場すると完全に死に体に。そもそも少なかった販売台数は一気に落ち込んでしまったのです。

3タイプのエンジン(2.0L 1カム16バルブエンジン、DOHC16バルブエンジン、2.3L DOHC16バルブエンジン)を用意。2.0Lは5ナンバー、2.3Lは全幅が1715mmに広げられ3ナンバーとなった

 走りもカタチもなかなか素敵だったアスコットイノーバですので、「あと4年早く登場していれば……」と思わなくもありません。

 しかしこればっかりは“めぐり合わせ”ですので、今さら言っても詮無いことでしょう。合掌し、こうしてたまに思い出してやるぐらいしか、我々にできることはありません。

■ホンダ アスコットイノーバ 主要諸元(2.3L)
・全長×全幅×全高:4670mm×1715mm*×1380mm
・ホイールベース:2720mm
・車重:1340kg
・エンジン:直列4気筒DOHC、2258cc
・最高出力:165ps/5800rpm
・最大トルク:21.5kgm/4500rpm
・燃費:10.6km/L(10・15 モード)
・価格:254万3000円(1992年式2.3 Si-Z 4WS)
*2.0Lは全幅1695mm

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