緩和したと思ったらまた強化!? タクシー業界の規制を巡るドタバタのフシギ[復刻・2013年の話題]

緩和したと思ったらまた強化!? タクシー業界の規制を巡るドタバタのフシギ[復刻・2013年の話題]

 クルマ界のあらゆる不思議に迫ることで一部でカルト的な人気を誇ったかもしれないベストカー本誌企画「不思議でたまらない」。今回は本企画から、タクシー業界を巡る規制緩和・強化のドタバタの「フシギ」を深掘り!(本稿は「ベストカー」2013年10月10日号に掲載した記事の再録版となります)

文:編集部

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規制緩和に逆行し業界の都合でタクシー車両を減車する不思議

駅で客待ちするタクシーの列が絶えることはほとんどない。ドライバーの待遇はいいとはいえず、定着率も低い
駅で客待ちするタクシーの列が絶えることはほとんどない。ドライバーの待遇はいいとはいえず、定着率も低い

 バブル当時、夜の銀座や新宿でタクシーを拾うのは至難のワザだった。しかし、今や夜の東京の繁華街では客待ちのタクシーがあふれかえっている。タクシー業界の現状は、供給過剰、過当競争に陥っているのだ。

 それを是正しようと、自民党が「タクシー事業適正化・活性化特別措置法改正案」をまとめた。

 1日1台当たりの売り上げが落ち込んでいる都市部のタクシーの台数削減を、タクシー会社に事実上義務づけるもので、すでに公明、民主両党も合意しており、この秋の通常国会に議員立法で提出する。

 3党合意というから、ほぼ間違いなく成立するだろう。そして、都市部のタクシーが減る。

 別に減っても困らないけど、今さら規制強化? ほかに方法はないの? そのあたり、検証してみよう。

マイカー普及と景気停滞ダブルパンチでタクシー低迷

全国のタクシー事業の経営状況等の推移(法人)
全国のタクシー事業の経営状況等の推移(法人)

 タクシー業界の経営悪化は深刻だ。上のグラフは、国土交通省がまとめた「タクシー事業の経営事業の推移」だが、輸送人員は右肩下がりで激減している。

 平成7年度(1995年度)には全国で年間延べ23億3577万人が利用していたのに、同23年度(2011年度)は15億2793万人まで落ち込んでいる。実に35%のマイナスだ。この低迷について、業界では2つの原因を指摘する。

 ひとつは、自家用車の普及。マイカーがあれば、確かにタクシー利用機会は減るだろう。

 もうひとつが、景気の長期停滞。バブル崩壊以降、日本の経済はズーっと低迷している。時々、「景気は底を脱した」という発表を聞くが、まったく実感なし。アベノミクスにしたって、たぶん潤っているのは大企業だけで、我々庶民には縁がない。

 これじゃ、タクシーに乗らないだろう。特に、経費削減で業務時のタクシー利用が激減しているのが業界にとっては痛いそうだ。

 もう一度、前のグラフを見てみよう。一本だけ他と違う推移を見せているのが、タクシーの台数である。なにもタクシー業界の肩を持つ訳じゃないが、誰が見たって供給過剰なのがわかる。

小泉内閣の規制緩和は失敗だったのか?

タクシー運転者と全産業労働者の年間所得等の推移
タクシー運転者と全産業労働者の年間所得等の推移

 そして、平成13年(2001年)に「規制緩和の嵐」が業界を襲う。

 それまでタクシー事業は認可制で、運賃はもとより新規参入も増車も、休廃業も地域ごとの状況に応じて行政が指導していた。このことの是非は、ぜひ問われるべきである。

 ダジャレではない、規制するのが本当に利用者にとって、業界にとっていいことなのか、きちんと検討すべきだと思う。逆をいえば、規制を緩和する時も、それが本当に利用者や業界のためなのかを。

 ところが、飛ぶ鳥を落とす勢いだった時の宰相、小泉純一郎は「なんでも規制緩和、なんでも民営化」を推し進めた。タクシー事業は、車庫の確保などの要件さえ満たせば、誰でも参入できることとなった。

 かくして、需要は激減してるのに台数は増える、そのしわ寄せはタクシードライバーにくる。歩合制の給料だから、売り上げが落ちれば収入も下がる。

 平成23年度(2011年度)の全国タクシードライバーの平均所得は、年間291万円しかなかった。全産業の平均所得との差は開くいっぽうだ。

 某大手タクシー会社のドライバーに話を聞くと「今の収入じゃ、独り者でギリギリ。とても家族を養えない。みんな会社公認でアルバイトしてますよ。コンビニの店員、トラックの運転手、道路工事の誘導をやってる人もいる。僕はクルマが好きで、職業運転手という気概を持って仕事してるけど、体はきついし若い人はすぐ辞めていく。他人に頼っちゃいけないけど、やっぱり政府になんとかしてもらいたいね」

 上のグラフはその惨状ぶりを如実に物語っている。天下の悪政とは言わないが、実情を無視した政策だったのかもしれない。

 さすがにまずいと思った国土交通省は、これも議員立法ではあるが、平成21年にタクシー業界の自主的な車両減少を促す「タクシー事業適正化・活性化特別措置法」を施行した。

 でも、なかなか減車が進まない。各タクシー会社の足並みが揃わないのだ。で、業界で集まって「ウチは10台減らすから、お宅も10台減らそう」などと話し合うと、カルテルと見なされ独禁法違反に問われる。

 そこで、業界が自民党のセンセイ方に働きかけて、今回の改正法案国会提出と相成ったわけだ。改正案では、エリア内のタクシー会社同士が、首長らを交えて減車を協議する。独禁法の適用除外となり、協議に応じないタクシー会社には国土交通大臣が勧告できる。

 さて、これで本当にタクシー業界はよくなるのか、ドライバーの待遇改善になるのか、なにより利用者のためになるのか。

 業界関係者は、「どの地域、どの時間帯で見ても、お客様にタクシーを長時間お待たせするようなことはありません。それより、銀座にように空車のタクシーが2重、3重で駐車してほかの交通にご迷惑をかけるような状態の緩和につながると思います」(全国ハイヤー・タクシー連合会)と胸を張るが……。

 なかなか明るい展望は見えてこないが、そろそろ結論にいかねばなるまい。結局は、対価を払ってでもタクシーを利用しようという気持ちにさせることだろう。

 そのためには、小手先の法律改正ではなく、日本経済を抜本的に立て直すこと以外にないのかもしれない。小泉内閣の官房長官だった安倍総理に期待していいものか!?

まとめ

 規制強化はドライバーの待遇改善のためと思えば納得するが、政府には抜本的な景気回復策を期待する。

(写真、内容はすべて『ベストカー』本誌掲載時のものですが、必要に応じて注釈等を加えている場合があります)

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