2025年6月19~22日に開催される第53回ニュルブルクリンク24時間レース。モリゾウさんはGRヤリスDATで出場する。2019年以来6年ぶりとなる挑戦は、あくまでも「ニュルから始まったもっといいクルマづくり」の通過点かもしれないが、改めてその想いに迫ってみた。
※本稿は2025年5月のものです
文:ベストカー編集部/写真:トヨタ、ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2025年6月26日号
モリゾウさんと「ニュル24時間」
モリゾウさんにとってニュルブルクリンク24時間レースは特別なものだ。
2007年当時副社長だったモリゾウさんはニュルブルクリンク24時間レースに初めて参戦した。
それまで数年にわたりモリゾウさんは、マスタードライバー成瀬弘さんの下で基礎から運転を教わった。トレーニングに使われたのは80スープラ。そして、ニュル24時間レースに出場するための訓練も80スープラで走った。
モリゾウさんは当時を振り返ってこう話す。
「スープラはすでに生産が終わっていました。しかし、当時は中古のスープラしかニュルに耐えられるクルマがなかったのです。コース上で欧州メーカーが開発中のスポーツカーに抜かれた時に『トヨタさんにはこんなクルマをつくるのはムリでしょう?』という声が聞こえてきました」。
この時の悔しさが、「もっといいクルマをつくろうよ」の原点だ。
そして、もうひとつ。2007年のニュルブルクリンク24時間を中古のアルテッツアで完走した時、モリゾウさんは人知れず涙した。その涙は完走できたという喜びからだけではなかった。
むしろ、誰からも応援されない悔しさ、何をやってもまともに見てもらえない悲しさがこみあげてきたからだという。
当時モリゾウさんは副社長だったが、レースに出場することは「ボンボンの道楽」と見られ、また社業でも「どうせ御曹司のあなたには何もできないでしょう」というふうに見られていた。そんな逆風の中での参戦だった。
「もっといいクルマをつくろうよ」と言い始めたもうひとつの原点は、この時の悔しさにある。
モリゾウさんがニュルを走る意味とは
6月の本番を前にした4月26日、NLS(ニュルブルクリンク耐久レース・4時間)の第2戦に出場したモリゾウさんだが、股関節に痛みを抱えながらの参戦となった。本番の24時間ではだいたい15周を走ることを想定すると、1回5周で3回走ることが必要になる。
15周と言ってもニュルブルクリンクのコースは1周25km以上あるので、都合375km以上にもなる。コースは高低差300m以上、170を超えるコーナーに加えて、コース幅が狭くうねる路面はドライバーを極限状態まで追い詰める。さらに不順な天候も予想される過酷なレースだ。
今回はあくまでも本番に向けた人とクルマの準備となるが、ニュルブルクリンクの厳しさを知るモリゾウさんは、4周走ると決め、走り切った。そしてGRヤリスDAT 109号車はみごとSP2Tクラスで優勝を飾った。
「今回無事に走り切ることができ、ほっとしています。師匠である成瀬さんは67歳で亡くなっています。果たして68歳の自分をニュルは受け入れてくれるのか? そんなプレッシャーを感じていましたが、4周走り切った時には生きている実感を得ることができました。
モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくりをチームみんなが実感してくれていることが、完走につながったと思います」
とチームに感謝を述べた。
2025年5月3日で69歳となったモリゾウさんにとって、今回はルーキーレーシングという自らのチームを率いての挑戦となる。成瀬さんの時代からメカニックやエンジニアとして関わってきた人たちもチームにはいる。
モリゾウさんは日ごろからルーキーレーシングを「家庭的でありながらプロフェッショナルなチームにしていきたい」と語るが、それも成瀬弘さんと走ったニュルブルクリンク24時間レースの経験があるからだ。
チームは同じワンボックスで移動し、同じカレーを食べる。どちらも成瀬さんがニュルに来る際に貫いていたことだ。
成瀬さんからどんな言葉を期待しますか? 不躾とは知りながら、モリゾウさんに聞いてみた。
「ニュルブルクリンク24時間レースを一緒に走ってくれたメンバーを大事にしてくれてありがとう。そしてニュルブルクリンクにこだわり、もっといいクルマづくりを続けてくれてありがとう」
と言葉をかけてもらえたら本望だという。
ニュルブルクリンク24時間レースでは予期せぬことが必ず起こる。クルマを鍛え、人を鍛え、終わりのない「もっといいクルマづくり」への想いを新たにするためにモリゾウさんは走る。
6月のニュルブルクリンク24時間レースが終わった翌6月23日は成瀬弘さんの15回目の命日だ。モリゾウさんはどんな報告をし、成瀬さんはそれにどうこたえるのだろうか。
















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