グリップ力の高いタイヤを履いている=大丈夫は大きな過ち
勘違いされがちなのは、ハイグリップタイヤを履いているから大丈夫、とか大型トラックよりはグリップしている、といった考え方だ。ハイグリップタイヤの多くはトレッドパターンの溝が少なく、排水性が低い。
ハイドロでトレッドが路面に付かなくなっていればハイグリップのコンパウンドも機能しない。また大型トラックはタイヤの空気圧が乗用車の10倍くらい高い。すなわち公道上で大型トラックが出せる速度でハイドロは起こり得ない。
溝が完全になくてもハイドロ速度は変わらないので、大雨下でトラックを追い越そうとしてラインを変えた途端、ハイグリップのスポーツカーがハイドロを起こしてクラッシュしてしまう、という事故が多発する。(ベストモータリングビデオ「死なない運転テクニック」で詳報)
レースではウエットレース中でも走行ラインは水量が低下してラインができる。だが追い越そうとしてラインを変えた瞬間にハイドロを起こしスピン、クラッシュしてしまう状況が多く発生する。こうした場面では遅い車に追いついてもオーバーテイクしないのが鉄則で、ストレスが溜まるのだ。
大雨下でライバルより有利な状況を作るためにタイヤの空気圧を5kg /センチメートルに高めて走ったことがある。これでハイドロ速度V=140.8km/hとなり、中速コーナーでハイドロを恐れずライバルをオーバーテイクできたのである。
タイヤが進化しているからといって油断は禁物
タイヤは年々進化している。とくにウェット性能の分野では、排水能力とグリップの両立と相反する要求に対して、構造と素材の両面から技術革新が続けられてきた。
現代のプレミアムタイヤは、非対称パターンや多方向溝設計によって、走行中にあらゆる方向へ水流を排出できる構造を採っている。また接地圧の分散とナノ技術によるコンパウンドの吸水性により、偏摩耗を抑えつ安定した制動力を実現している。
ウエット路面では、「いかに水膜を破るか」がカギとなる。ここで力を発揮するのがシリカ主体のコンパウンドである。シリカは水と親和性が高く、柔軟性に富み、低温下でも高い粘着性を維持できるため、雨天時における初期グリップが向上する。
加えて、シランカップリング剤によって均一に分散されたシリカ粒子は、ドライ・ウェットの両性能を引き上げる鍵を握っている。こうした技術はタイヤメーカーにとって企業秘密とも言える部分。
ミシュランが1990年代にレース用タイヤにシリカを使い始めた頃、スリックタイヤなのにウェットでのグリップ力の高さに驚かされた。
だが、いかにタイヤが高性能であっても、摩耗していてはその性能を発揮できない。溝の深さが3.0mmを下回ると、排水性能は急激に落ち、ハイドロプレーニングのリスクが跳ね上がる。JATMAでは1.6mmをスリップサインとしているが、実用上の安全限界は4.0mmとされている。
さらに、空気圧の管理も見落とせない。とくに長距離移動や積載重量も増す夏の行楽シーズンでは、過負荷によりタイヤへの負担が増すことを肝に銘じておきたい。
タイヤは進化した。車両姿勢の電子制御システムも、制動補助も格段に進歩した。しかし、それらはあくまで「限界を引き上げる」技術ではない。「限界をなくす」魔法は存在しないのだ。
制御不能になる前に、スピードを緩める。水膜の厚みを読み、水の少ない路面を選ぶ。こうした知識を養い、実践することが雨のドライビングにおける最も堅実なリスクマネジメントになるのである。



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