業績悪化は日産だけじゃないメルセデスなど欧州メーカーたちも!! 欧州自動車メーカー低迷の要因は?

業績悪化は日産だけじゃないメルセデスなど欧州メーカーたちも!! 欧州自動車メーカー低迷の要因は?

 2024年末に明らかとなった日産の経営状況からも分かるように、ほとんどの自動車メーカーで順風満帆とはいかない状況が続いている。苦境は日本だけではない。欧州のビッグネーム各社も、未曾有の業績悪化に苦しめられているのだ。

※本稿は2025年7月のものです
文:井元康一郎/写真:フォルクスワーゲン、BMW、メルセデスベンツ ほか
初出:『ベストカー』2025年8月10日号

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名車の故郷・ヨーロッパの自動車産業が危機に

2025年6月に日本で発表されたフォルクスワーゲン ID.Buzz(左)。良車を次々と送り出しているが、営業利益は減少している
2025年6月に日本で発表されたフォルクスワーゲン ID.Buzz(左)。良車を次々と送り出しているが、営業利益は減少している

 業績悪化に苦しむ欧州の自動車メーカー。2024年の決算をみても減速ぶりは一目瞭然だ。

 フォルクスワーゲンはアウディ、ポルシェなどの傘下企業を含めたグループの売上高が前年比微増の3247億ユーロ(約54兆8743億円/1ユーロ=169円。以下同)だったものの、営業利益は191億ユーロ(3兆2279億円)と、前年から15%減。営業利益率は5.9%に低下した。

 メルセデスベンツ、BMWも冴えない。メルセデスベンツは、日本円換算で売上高が前年比4.5%減の24兆6053億円、営業利益2兆1121億円と、前年の2兆9444億円から大幅マイナス。BMWは売上高が前年比8.5%減の24兆622億円、営業利益に至っては38%減の1兆9450億円にとどまった。

業績悪化は複合的問題 主な要因は3つあり

主なヨーロッパメーカーとサプライヤーの業績悪化への対応。労働者の権利を重視するヨーロッパにあって人員削減は異例ともいえる
主なヨーロッパメーカーとサプライヤーの業績悪化への対応。労働者の権利を重視するヨーロッパにあって人員削減は異例ともいえる

 なぜ欧州勢の業績が急速に悪化したのか。メディアでよく取り沙汰されるのはEVシフトの行き詰まりだが、実際はそういうシンプルなものではなく、もっと複合的な問題だ。主な要因を3つ挙げてみよう。

(1)欧州全体が労働者の権利を重視する社会民主主義的な政策を取っているため、コストの高い欧州域内からの生産拠点移転や人員整理を進めにくい。

(2)欧州政府による環境規制の大幅強化でクルマの製造コストが上がったうえ、収益性の低いBEV(バッテリー式電気自動車)へのシフトを迫られている。

(3)ドイツメーカーの場合、一大収益源としてきた中国市場でBEVを中心に地場資本との商品力、コスト競争に敗れつつある。

 まずは1番目の高コスト体質の是正の難しさ。欧州では長年にわたって雇用を守ることこそが企業の最大のタスクと考えられてきた。現代ではやや緩和されているが、そのDNAは確実に継承されている。

 雇用対策のため、各メーカーとも国内に巨大工場を抱えている。その典型がフォルクスワーゲンだ。本社ウォルフスブルク工場は、それ1カ所だけで総員約7万人もの従業員を雇っている。南ドイツのインゴルシュタットに本拠を構えるアウディも、本社工場の従業員数は4万人以上だ。

 2024年末、フォルクスワーゲンは国内3万5000人削減という欧州史上空前の大規模人員削減について労働組合の合意をようやく取り付けた。が、ロベルト・ハヴェック副首相(当時)から「雇用を守れないのなら無駄」と、最初で最後とするようクギを刺された。

 欧州は人件費が高水準なうえ、エネルギーコストの高止まりやインフレなど幾多の逆風がある。ユーロは米ドルと並んで高値圏にあるが、これ以上通貨高が進むと重圧はさらに増す。

不調要因が広範なため対策は容易ではない

 次に欧州政府による環境・安全規制の強化。ユーロ7という新規制は排出ガスレベル計測の厳格化だけでなくブレーキやタイヤのダストまで監視対象としており、メーカーは対策に苦慮している。

 GSR2安全規制(※)も現在高級車に搭載されているものに相当する機能をすべてのクルマに拡大するだけでなく、異なるメーカー間の自動運転情報の共有、アルコール検出など広範にわたっており、部分改良ではすまない。

(※General Safety Regulation 2……EUにおける自動車の安全規制で、2024年7月7日からはすべての新車に適用されている)

 それらをクリアしても、2030年には1kmあたりのCO2排出量を49.5g(レギュラーガソリン車で燃費47.7km/L相当)に抑制するという事実上のBEV強制規制が待っている。これらが生むコスト増がすでに発生しているのだ。

 そして3番目。欧州メーカーはBEVを主軸にして失敗したと言われるが、そのBEVが素晴らしいものであったなら、それらが売れることで投資分を回収することも望めた。

ヨーロッパのBEV年間販売台数とBEV比率。近年は伸びていないどころか、わずかに落ち込んでいる
ヨーロッパのBEV年間販売台数とBEV比率。近年は伸びていないどころか、わずかに落ち込んでいる

 ところが、欧州勢のBEVは中国市場でユーザーの支持を得られず、中国のBYD、吉利など地場資本のモデルに惨敗。

 欧州メーカーは、デザイン、テイスト作りで世界のベンチマークであり続けてきたが、BEVでは新興勢力に完全にお株を奪われたままだ。エモーショナルなクルマ作りで戦えないとなると、欧州メーカーは存在価値が半減する。

 欧州メーカーの不調の要因は広範に及ぶだけに、対策を打つのは簡単ではない。が、改革に時間をかけている余裕はない。果たして新時代の覇者として再び君臨できる時代は来るか!?

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