錦絵や引札(ひきふだ)で見る日本の乗り物文化
横浜が開港し明治維新以降、馬車や人力車、鉄道、自動車などが日本でも登場する。その様子を生き生きと伝えるのが錦絵や引札(ひきふだ)だ。錦絵は多色刷りの木版画で新聞錦絵といったニュースメディアもあった。また引札は現在のチラシにあたるもので、庶民たちは「絵」を見ることで時代の変化をつかみ取っていた。
1872年に新橋と横浜間に初めて鉄道が走るが、その1年前くらいからいろいろな錦絵が期待をあおるように描かれたという。錦絵には「ぶつかるー」や「前に進めるの?」といったコメントが付けられていて面白い。想像で描かれているので、線路に建物や人がいたりする構図なのだ。
こちらの担当で司書の小室利恵さんは、「日本の乗り物は皆さん見たことがあるものなので、少し人気がないのですが、当時の乗り物にもっと興味を持ってもらえるようなコメントを付けています」と話してくれた。
木版画は庶民も楽しめるカラー印刷ということでは、欧米のポスターなどよりも100年以上早く、その技術の積み重ねが開国とともに花開いた。
また大正期のお正月の少年・少女誌の付録には「自動車レース」のすごろくもあったようで、こどもたちにクルマへの興味が広がっていったことがわかる。
貧しくとも心だけは気高く! 日本の成長はクルマとともにある!
文化館はとにかく興味深い。自動車玩具やゲームを展示しているコーナーで榊原康裕館長が興味深いことをおっしゃった。1950年代に欧米に輸出された日本製のブリキ製玩具についてのエピソードだ。
「戦後貧しかった日本が外貨獲得のために盛んにティントイ(ブリキ製の玩具)をアメリカやヨーロッパに輸出したのです。戦前の日本のおもちゃは安かろう、悪かろうみたいな感じで人気がなかったのですが、こだわりや丁寧さ、繊細さといった技術で、欧米のものを逆転し大人気になったんですね。クルマづくりもそうなんですが、日本や日本人のよさを外国人が教えてくれるということがあります」
クルマは明治以降外国から入ってきた乗り物だが、日本は見よう見まねで国産車をつくり、欧米を追い越すまでになった。ただ、そのスピードが速すぎて、自分たちのよさや個性に気づいてこなかったのかもしれない。
トヨタ博物館をはじめ、自動車博物館に行き、クルマとクルマ文化の日本と欧米との違いを感じることで、クルマの見方も変わってくるはず。少なくともクルマ好きなら、昨日よりも幸せな気持ちになれるはずだ。
・トヨタ博物館
世界の自動車とクルマ文化の歴史をご紹介する博物館。トヨタ自動車創立50周年記念事業のひとつとして1989年4月に設立。19世紀のガソリン車誕生から現代まで約150台を展示する「クルマ館」とポスターやカーマスコットなど文化資料約4000点を展示する「文化館」がある。年に数回の走行披露は大人気でクラシックカーフェスティバルやオーナーズ・ミーティングなどさまざまなイベントも開催されている。愛知県長久手市にあり、ジブリパークにもほど近い。10月3日(金)から2026年4月5日(日)まで’80~’90年代の日本車を特集した企画展『What’s JDM?』が開催される


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