センチュリーの「鳳凰エンブレム」に日本の伝統工芸技術である彫金の技が取り入れられているのは有名な話だが、「自動車×日本の伝統工芸」の例はほかにもある。ここでは日本の伝統工芸と出会い新たな魅力を放つ自動車をご紹介する。
※本稿は2025年10月のものです
文:ベストカー編集部/写真:BMW、日産、レクサス
初出:『ベストカー』2025年11月26日号
自動車×日本の伝統工芸
最新技術をまとったクルマの中に、静かに息づく日本の伝統工芸がある。そこに施されるのは単なる和風デザインではなく、時代を超えて何百年と受け継がれてきた職人たちの技巧そのものなのだ。
しかし、その価値や背景が充分に理解されていないのも現実。そこで、実際にクルマに採用されている伝統工芸の魅力を紐解き、日本の美と伝統を深く掘り下げていく。
BMW X7「BLACK-α」が放つ黒の輝き
2025年5月、日本専用100台限定の特別仕様車として登場したBMW X7「BLACK-α」。
全身を漆黒で包み、見る者すべてを圧倒する存在感を放つ外観。また、内装には漆芸家・服部一齋氏による漆蒔絵と螺鈿を用いた“時つ風”モチーフ、川島織物セルコン製の“朝凪”を表すフロアマットなど、日本の伝統工芸が息づいている。
さらに、真鍮製ブラックバッジやドアプロジェクターなど細部まで美を追求し、漆と先端技術を融合。
普段は箸やお椀で見る漆が、BMWと交わることで、まったく新しいラグジュアリーの形を提示しているのだ。
●漆芸(しつげい)とは?
日本を代表する伝統工芸のひとつで、縄文時代から受け継がれてきた長い歴史を持つ。漆の木から採れる樹液を塗料とし、塗っては磨きを繰り返し行うことで、深みのある艶と独特の質感が生まれるのが特徴。
さらに「蒔絵」などの加飾技法によって、調度品が芸術品へと昇華してきた。漆芸とは、まさに日本の美意識を映し出す伝統の結晶なのだ。
五感で堪能! アリアで感じる禅の室内
近々にマイナーチェンジを控える日産 アリアだが、今回は現行モデルにフォーカス。
EVらしい先進性をまといながらも、そのデザインの根底に流れるのは「禅の精神」。静と動、伝統と未来が丁寧に織り込まれている。
象徴的なのが、フロントグリルに刻まれた組子模様。新潟・燕三条の高精度金型技術によって立体的に再現され、ただの装飾ではなく“和”の意匠そのものをクルマに落とし込んでいる。
車内に足を踏み入れると、その世界観はさらに濃くなる。ダッシュボードには木目調フィニッシャーが横一線に伸び、外光を受けて穏やかな陰影を描いている。
また、足元には組子模様を透かした行灯ライトがほのかに灯り、運転席に座るだけで、緊張感の中にも深い落ち着きを感じさせる空間が広がっている。
EVという先端技術を軸にしながらも、こだわり抜かれた素材の質感や光の演出など、五感で和を体験できる空間設計は、単なる意匠を超えた思想の表れだ。
先に紹介した漆芸のような工芸的装飾ではなく、組子・木目・行灯といった日本の意匠をテクノロジーの中に自然に溶け込ませたアリア。最先端の電動モビリティに、古くから受け継がれてきた日本の伝統工芸を融合させることで、EV=無機質という常識を静かに裏切る一台となっている。
●組子(くみこ)とは?
釘を使わずに木材を細かく組み合わせ、幾何学的な模様を作り出す日本の伝統技法。飛鳥時代に始まったとされ、障子や欄間、建具などに使われ、精密に加工された木片がピタリと噛み合うことで、美しい模様と高い強度を両立。
光を柔らかく透かす繊細な美しさは、まさに職人技の結晶であり、日本建築の静謐な魅力を象徴している。

























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