受け継がれた40年目のバトン
一見地味な白い2ドアのカローラ・レビンが止まっていた。ところがオーナーのhirotoさんは、そのボンネットに手を置きながら「僕にとっては、やっと辿り着いた86なんです」と語る。
きっかけは大人気アニメの「頭文字D」。2012年からは、毎年夏にファーストステージからファイナルまで一気見する日々を過ごしていたという。
しかし憧れのハチロクは、免許を取る頃には相場が跳ね上がってしまい、とても手が届かない。代わりに17歳でシルビアを買ったが、バイクとの事故に遭ってしまいクルマそのものが怖くなってしまった。
シルビアを手放した後は、「人と被らないクルマ」を求めて、USDMの世界にのめり込んでいた。左ハンドルのキューブにセルシオ、プリウスにシエナと、2カ月に1台のペースで増車と売却を繰り返し、「そろそろ本命に」といったタイミングで、再び86の相場をのぞいた。
友人に背中を押されて見に行ったのは、3ドア前期トレノと2ドアレビンGT。当初、2ドアレビンGTは一番なしだと思ってたグレードだったようだが、記録簿を開いて仰天した。昭和61年から令和まで、几帳面に並ぶ整備履歴に息を呑んだ。
前オーナーはこのクルマと共に人生を終え、その想いごと託されたことを知る。「最初はイケイケのカスタムを考えていたけれど、これだけ大事にされてきた個体を壊しちゃいけないと決断しました」。
その後、GRガレージで新品部品を集め、当時のカタログやブログを読み漁り、ステッカーの位置まで再現する新車ごっこが始まる。
パーツをひとつ交換するたびに、「40年分のバトンを受け取っている気がする」と愛着は増していくばかり。「いじり倒す用のハチロクは、もう一台いつか買えばいい。この子はこのまま、新車以上の状態で残してあげたいんです」。そう語るオーナーの姿、白いレビンは静かに、そして嬉しそうに見守っていた。


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