今年(2025年)10月下旬、アメリカのトランプ大統領が来日した。日本では高市総理が誕生したばかりということもあり、世間の関心は今後の日米関係に集まっていた――が。
パトカーファンたちの視線は、まったく別の一点に釘付けになっていた。それは、トランプ大統領の警護車列。規模はいつも通り、30~40台に及ぶ厳重な大名行列。ところが、その中身がどうにもおかしい。
なんと、大統領専用車「ビースト」の直前を走っていたのが、ミニバン。日産エルグランドの警護車だったのだ。
VIP警護の「顔」とも言えるこのポジションに、ミニバンが就くのは前代未聞。過去の車列と比較しながら、今回の異例すぎる布陣を詳しく見ていこう。
なお、最新の警護車と車列については『令和パトカー大全』に詳しい。合わせて参照してもらいたい。
文・写真/有村拓真
VIP車の直前は“高級セダン専用席”だったはず
国内で見られるVIPの車列のなかでは、アメリカ大統領の車列がもっとも凄まじい。日本の警察に加え、アメリカ本国のシークレットサービスも警護に加わるため、その車列の台数は軽く30~40台以上になる。
この車列の中核になるのが、大統領専用車(ビースト)と、その前後を固める日本の警護車だ。警護車は、前に1台(前駆)、後ろに2台(後衛)の3台がセットとなる。VIPの盾となることが求められるため、警護車にも防弾仕様の特別警護車が使用されることがほとんどで、これまで前駆はセダンタイプの高級車が務めてきた。過去の例を順番に見ていこう。
まず2017年11月に初来日したトランプ大統領。車列にはW221メルセデスベンツSクラス警護車2台とレクサスLS警護車1台が任務に就いていた。オール高級セダンだ。
そして2年後の2019年に国賓として来日したトランプ大統領の車列には、フーガ警護車が1台とレクサスLS警護車が2台付き、夫人の警護車列にはベンツ警護車とフーガ警護車が1台ずつ編成されていた。
さらに同年6月に開催されたG20大阪サミットでは、前駆・後衛ともにレクサスLS警護車が務めている。
ところが6年ぶりの来日の今年、なんと車列の前駆についたのは、エルグランド警護車だったのだ。加えて、後衛にはランクルが2台という布陣。まるでアメリカのシークレットサービスを彷彿とさせるようなワゴン&SUV系警護車の組み合わせである。
前駆にワゴン車が配置されたのは、おそらく今回が初であろう。少なくとも米大統領クラスのVIPの車列で前駆として使われたのは、例がないはず。
ちなみにエルグランド警護車が警護車列に編成されたこと自体はある。外国要人では2019年のローマ法王来日時が初。その後、2022年の安倍元総理の国葬儀の警護で活躍したが、いずれも後衛の役割だ。しかも普段、エルグランドはSPの輸送など裏方での任務が多い。今回、まさかの配置に、パトカーファンは仰天だった。
なお、アメリカ大統領の警護にSUV車が入ること自体は、決してレアなことではない。2009年のオバマ大統領初来日時はいすゞビッグホーン警護車が先行車として使用されたり、車列に編成されたりしている。また、クリントン大統領来日時でも警護任務に就いていた。ただし、車列に組み込まれる場合は、いずれも後衛にあたることが常であった。
今回、エルグランド警護車が前駆に配置された理由は不明だが、令和に入って、警護車の車種や運用に変化が見られていることは確かだ。



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