トヨタのクルマづくりがダイナミックに変わろうとしている。開発の工程を一気通貫で行う研究開発拠点が「トヨタテクニカルセンター下山」だ。テストコースに加えて開発の現場をメディアに公開したが、そこで見えたのは何ともユニークな光景だった。
文:ベストカーWeb編集部/写真:ベストカーWeb編集部、トヨタ
【画像ギャラリー】まさにトヨタのクルマづくりの秘訣!! 開発からテストまでココでイッキに行う「SHIMOYAMA」の全貌を大公開! (6枚)画像ギャラリー山中に突如現れる最先端の研究開発施設「トヨタテクニカルセンター下山」
愛知県豊田市の市街地から1時間ほど車を走らせると、トヨタテクニカルセンター下山が姿を見せる。五平餅が有名なこの場所に、トヨタは2018年4月から施設の建設を始め、2024年3月に全面運用を開始した。
豊田市と岡崎市にまたがる159.2haもの広大な土地には、いくつものテストコースがある。さらにデザイン部門、企画・設計部門、評価部門が籍を置き、それぞれが壁のないワンフロアで約3000人が働いている。ここで開発されるのは、GRとレクサスのクルマたちだ。
これまでトヨタは豊田市の本社にテクニカルセンターを持ち、製品企画、デザイン、設計、試作、車両評価といったいわゆる「開発」を行ってきた。ただ、本社のテストコースは施設として古く、できることが限られていた。
そのため、本格的な試験となると北海道の士別試験場や静岡県裾野市の東富士研究所を使うことになり、開発メンバーはそのたびに出張し、データを持ち帰って開発を進めていた。
転機となったのは2007年。ニュルブルクリンク24時間レースに豊田章男会長(当時は副会長)が初めて出場したときのことだ。レースに向け、中古の80スープラに乗ってニュルブルクリンクでドライビングを磨いていた豊田氏は、現地で大きな衝撃を受ける。
カモフラージュを施した欧州メーカーの開発車両に軽々とぶち抜かれ、まるで「トヨタには(われわれみたいな)クルマはつくれないでしょう!」と言われているような気がしたという。その悔しさこそが、のちに「もっといいクルマをつくろうよ」と社内に呼びかけ始めた原点となった。
あの衝撃から年月を経て、ニュルブルクリンクのようなテストコースを持つことは、豊田章男会長とトヨタの悲願となった。下山の第3周回路(カントリー路)はニュルブルクリンクの約4分の1の規模で設計されており、全長約5.3km、高低差75mという、クルマにとっては途方もない負荷のかかるコースだ。
ほかにも高速周回路や特性評価路、ダートコースがあり、「走って、壊して、直して、また走る」を繰り返しながら、走りと品質をアジャイル(迅速)に磨いている。
下山のユニークなところは、エンジニア、デザイナー、メカニック、そしてテストドライバーがひとつの拠点に一堂に会していることだ。開発のすべてを行うことができる「人と設備」が揃っていることこそが、トヨタテクニカルセンター下山の最大の強みであり、革新的な点と言える。
「道がクルマを鍛え、クルマをつくる人を鍛える」思想のもと、厳しいコースで「走る・壊す・直す」が繰り返される
テクニカルセンター下山には、レクサスインターナショナルの渡辺剛プレジデントと、GRの高橋智也プレジデントが常駐する。プレジデントをトップに、各機能の部長、課長、担当が強固な組織をつくり、日々のクルマづくりが行われている。
下山での開発プロセスは極めて革新的だ。例えば、試作車がテストコースを走って不具合が起きれば、すぐに整備フロアに戻ってメカニックが修理や整備を行う。この整備フロアの真上(2階)には企画・設計部門があるため、エンジニアは何かあればすぐに整備フロアに駆け付けることができる。
テストドライバー、メカニック、エンジニアがそれぞれの垣根を越えて膝を突き合わせて話し合い、不具合の原因を想定する。そこからデータを解析し、原因の特定および改善策を探っていく。そして、改善が施されたクルマにテストドライバーが再び乗り込み、評価をエンジニアやメカニックにフィードバックする。
これを繰り返すことで、アジャイルかつ効率的にクルマを改善していくことができるのだ。空間と時間の壁を取り払ったことで、開発スピードは驚くほど速くなり、強いクルマができるようになった。これから世に送り出される予定の「GR GT」や「LEXUS LFA(後継モデル)」、そして「GRセリカ」といった期待のモデルにも、すべてこの開発手法が取り入れられている。
ちなみに、開発の初期プロセスからデザイン部門を密接に巻き込んでいるのも、下山ならではの特徴だ。トヨタは東京にもデザイン拠点を持つが、レクサスとGRに関しては、クレイモデリングやデジタルレビューといった「造形」の作り込みを、同じ開発棟の3階にあるデザイン部門フロアで行っている。デザインについても、現場で即座にさまざまな意見を言い合える環境が整っているのだ。
1階に整備フロア、2階に企画・設計部門フロア、3階にデザイン部門フロアをレイアウトし、さらにそれぞれのフロアには壁がない。これによって「開発の見える化」が徹底されている。
レクサスとGRという尖った2つのブランドが同じ拠点で開発されることは、適度な交流を持ちながらも、お互いに切磋琢磨する関係を生む。それぞれのブランド価値を向上させるうえで、働く人々にとって大きなモチベーションとなっているようだ。
【画像ギャラリー】まさにトヨタのクルマづくりの秘訣!! 開発からテストまでココでイッキに行う「SHIMOYAMA」の全貌を大公開! (6枚)画像ギャラリーテストコースはヘリコプターの発着をはじめ、災害時の支援拠点としても活用される!
テクニカルセンター下山は、自然豊かな山間部にある。そのため、南海トラフ地震や昨今の激甚化する風水害が発生した際には、周辺道路が寸断され、集落が孤立するリスクも低くない。
そこでテクニカルセンター下山に期待されているのが、災害時の支援拠点としての役割だ。今回豊田市と連携し、ヘリコプターを使った避難者の搬送や支援物資運搬の訓練も行われた。トヨタと豊田市は2013年に「災害時における相互協力に関する協定」を結んでおり、実際の訓練は子会社であるエアロトヨタのヘリコプターが使われた。
下山の広大で自然豊かな土地がなければ、ニュルブルクリンクのような高低差のあるテストコースも、3000人が一体となって働けるような開発拠点の整備も不可能だっただろう。だからこそトヨタは下山との共生を重要視している。地元住民との交流についても「オータムフェスティバル」などの見学会を開催するなど大切にしている。
下山産の熱いクルマたちが世界を席巻し、世界中の自動車ファンから「SHIMOYAMA」の名が注目される日がやってくるだろう。それこそが、トヨタから下山への「ありがとう」になるはずだ。
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