MT車の魅力を決めるのは、エンジン性能だけではない。シフトレバーの動きや操作力、ギアが入る瞬間の感触も重要だ。マツダ3に搭載される6速MT「SKYACTIV-MT」は、人間の腕や筋肉の動きまで分析して開発された。人馬一体を支える緻密な設計に迫る。
文/写真:ベストカーWeb編集部
【画像ギャラリー】後ろの視界どんな感じ? イマドキMTでうれしいぞマツダ3ファストバックの気になる後席がコレ!!(10枚)画像ギャラリー短いストロークと軽い操作力を両立
MTのシフトフィールは、単にレバーを短くすればよくなるわけではない。ストロークを短くすると、内部機構を動かすために大きな力が必要となり、操作が重くなる。反対に軽さを優先すれば、レバーの移動量が増え、間延びした感触になりやすい。
SKYACTIV-MTが目指したのは、短いストロークで軽く動き、それでいて節度感のある操作だ。マツダは乗車姿勢や腕の動き、操作時に使う筋肉まで人間工学的に分析。従来型MTのシフトストローク50mm、操作力約50Nに対し、45mm、約40Nを開発目標とした。
数字にすればストロークはわずか5mmの短縮だが、手元で何度も繰り返す操作だけに、その違いは小さくない。シフトレバーを握って次のギアへ動かした際、短い動きで素早く変速でき、余計な力も必要としない。
さらにマツダは、レバーを動かし始めてから変速が完了するまでの操作力を細かく数値化した。ギアの回転を同期させた後は、シフトレバーが変速位置へ吸い込まれるように動き、最後には適度な剛性感が伝わるように設計している。
この感触を実現するため、トランスミッション内部にも手が加えられた。ギアを切り替えるスリーブの移動量を従来型より約15%短縮し、レバー比を拡大。短いストロークでも、必要な力を効率よく内部へ伝えられるようにした。
ロッドの支持部にはスライドボールベアリングや低摩擦ブッシュを採用し、シフトフォークを動かすレバー形状も最適化された。変速途中に発生しやすいゴツゴツとした引っかかりも、歯の形状や噛み合う角度を見直すことで抑えている。
軽さと効率まで追求した“走る歓び”の装置
SKYACTIV-MTの特徴は、手応えのよさだけではない。ユニットそのものを小型・軽量化し、エンジンの力をできるだけ無駄なくタイヤへ伝えることも重視された。
ギアやベアリングの配置を見直し、入力トルクに合わせて構造を最適化。トランスミッションケースも必要な剛性を確保しながら肉厚を抑え、形状の工夫によって軽量化を図った。単に材料を減らすのではなく、振動や騒音まで車両全体で解析している点がマツダらしい。
内部で使うオイルも低粘度化された。走行中に必要な部分へ確実にオイルを送りながら、余分なオイルをギアがかき回す抵抗を削減。低抵抗ベアリングの採用などと合わせ、開発時には欧州モード燃費で約1%に相当する伝達効率の向上を実現したという。
現行マツダ3では、e-SKYACTIV G 2.5を搭載する25Sと25L、e-SKYACTIV X 2.0を積むX TouringでSKYACTIV-MTを選択できる。25Sと25Lは前輪駆動、X Touringは4WDとの組み合わせだ。
2.5L車の6速MT仕様は、AT仕様より20kg軽い1400kg。WLTCモード燃費もAT車の15.6km/Lに対して17.0km/Lとなる。X TouringでもMT仕様はAT仕様より30kg軽く、燃費は16.7km/Lから17.7km/Lへ向上する。自分で変速できる楽しさだけでなく、軽さと効率にも明確な利点がある。
さらにマツダ3は、ステアリングやペダルを自然に操作できる運転姿勢にもこだわる。そこへ、腕の動きまで考えて造られたSKYACTIV-MTが加わることで、ドライバーの意思がクルマへ素直に伝わる。
派手な機構ではないが、シフトレバーを動かすたびに設計者のこだわりを感じられる。SKYACTIV-MTとは、単なる6段変速機ではない。マツダが掲げる「人馬一体」を、ドライバーの左手で実感させるための装置なのである。
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