メーカーだからこそできた「ボディから作り直す」手法
ここまでなら、まだ高性能なホットハッチの範疇といえる。コルト・ラリーアート・バージョンRの本当に凄いところは車体だった。
ドア開口部のスポット溶接をベース車の1.5倍に増やし、フロントカウルトップの板厚をアップ。大きな開口部を持つハッチバックの弱点となりやすいリヤまわりではDピラーにリーインフォースを追加した。
フロントメンバーにも補強を加え、リヤフロアにはクロスメンバーを補強するトライアングルロッドを配置。フロントストラットタワーバーを備え、リヤダンパーのアッパーマウントにもガゼットを追加している。
さらに前後のサイドメンバーを左右方向に結合するなど、ランサーエボリューションで蓄積したボディ補強の考え方まで持ち込んでいる。これがワークスコンプリートカーの凄いところだ。アフターマーケットで完成車を補強する場合、基本的には出来上がった車体へパーツを追加していくことになる。メーカーは違う。
ここが動くということがわかれば、そもそもの構造から手を入れられる。必要なら板厚を変え、溶接を増やし、補強材を生産段階から入れることができる。そしてボディ剛性を確保して初めてサスペンションを本当に機能させることができる。
足もブレーキも徹底改良! 速さを支えたのは全体の作り込み
フロントサスペンションにはスプリングレート変更、ロアアームやブッシュ類の強化など8項目もの専用チューニングを実施。リヤにも5項目に及ぶ変更が加えられた。ステアリングのラック&ピニオンもクイックレシオ化されている。
ブレーキも単純に大きなローターを付けたというものではない。フロントディスクローターを厚肉化し、パッドも欧州製の専用品とした。さらにマスターシリンダーのピストン径まで拡大し、制動力だけではなくペダルフィールにも手を入れている。
ブレーキというのは最大制動力だけで評価するものではない。コーナー進入で必要な減速度を作りながら、荷重をフロントへ移し、その荷重をどこで抜いて旋回へ移行するか。その一連の操作を行うには、ペダルストロークと踏力に対して制動力がどのように立ち上がるかが重要なのだ。
ついに筑波1分10秒切りへ!?
タイヤには205/45R16サイズのヨコハマ アドバンを採用した。そして完成したクルマを筑波サーキットへ持ち込み、目標としていたタイムアタックに挑んだ。結果は1分9秒9。わずか0.1秒とはいえ、開発目標だった1分10秒の壁を突破したのである。
この数字に、コルト・ラリーアート・バージョンRというクルマの志が表れている。154PSのコンパクトカーを作ることが目的ではなかった。筑波を1分10秒以内で走れるクルマを作る。そのためにはどれだけのエンジン性能が必要なのか。
どの程度のボディ剛性が必要なのか。サスペンションをどう動かし、ブレーキに何を要求し、どんなステアリング特性を与えるべきなのか。先に性能目標があり、そこからクルマ全体を組み立てていった。だからエンジンだけが速いわけでもなければ、足だけが硬いわけでもない。これこそワークスのクルマ作りなのである。



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