現在経営の立て直しを進めている三菱自動車であるが、いまから20数年前の1990年代は、「RV王国」と呼ばれるほど名車と呼ばれるRV(現在のSUVやミニバン)を多数揃え、ヒット車も多かった。当記事ではその頃の名車を振り返りつつ、そのいっぽう現在、世界的にSUVやミニバンが人気なのに、三菱自動車のRV王国が続いていない背景などを考えてみた。
文/永田恵一
【画像ギャラリー】いま見てもカッコいい!! 時代を支えた三菱のRV軍団たち
■RV王国だった頃の三菱自動車の名車
●2代目パジェロ(1991年)
2代目パジェロは1980年代後半からのバブル経済という時代背景もあり、モデルサイクル後半に従って販売台数が増加した初代パジェロを正常進化させたモデルだった。
2代目パジェロの正常進化の要素としては3ドアのJトップ(ソフトトップ)とメタルトップ、5ドアの標準ルーフとキックアップルーフという合計4種類のボディの設定をはじめとしたワイドバリエーション、高級感あるインテリアや快適性能向上による乗用車化、フルタイム4WDを基本としながらFRとすることも可能なスーパーセレクト4WDの採用などが挙げられる。
2代目パジェロは当時本格的なクロカンSUVがブームだったのも追い風となり、平均価格が300万円はする高額車ながら、月間販売台数1位になったこともあるほどのヒット車となった。
●初代RVR(1991年)
初代RVR(レジャービークルランナーの略)は当時のギャランをベースにした左リアだけがスライドドアとなる、現在のシエンタやフリードの2列仕様のようなマルチパーパスカーだった。
メカニズム的に目立つところはなかったが、乗車定員が4人となるリアシート2人掛け仕様があり、この仕様はリアシートがロングスライドする点が新鮮で、初代RVR自体もどこか楽しげなクルマに感じられた。初代RVRは好調に売れたこともあり、今で言うクロスオーバー的なスポーツギアや前席頭上が電動トップとなるオープンギア、2Lターボエンジン搭載車などが追加され、年々楽しげな雰囲気を深めていった。
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●デリカスペースギア(1994年)
現在のデリカD:5まで続く「オフロードも走れるミニバン」というキャラクターを持つデリカは、1994年にキャブオーバーのスターワゴンから2代目パジェロをベースにしたFR構造のスペースギアにフルモデルチェンジした。デリカスペースギアは強引な成り立ちだったのも否めなかったが、特にホイールベースを含め全長を延ばしたロングボディが際立っていた広さやデリカのDNAである高い悪路走破性といった強い個性を持っており、それなりの成功を収めた。
●パジェロミニ(1994年)
パジェロミニは車名の通り3ドアのパジェロをそのまま軽自動車にしたスタイルを持つモデルで、パジェロミニという車名は一般公募により決定したものである。
パジェロミニは軽クロカンSUVでは先輩となるスズキジムニーに比べればオンロードも重視したコンセプトだったが、それでも十二分な悪路走破性を備えており、そのバランスも人気を集めた理由だった。また、パジェロミニはターボの4WDだと140万円ほどする軽自動車としては高額車だったが、ターボの4WDにオプションを多数加えた200万円近い仕様がよく売れ、現在の軽自動車の高額化、高級化の先駆けとなったモデルでもあった。
●パジェロJr.(1995年)
パジェロJr.は現在長い納車待ちとなっているジムニーシエラ同様に、初代パジェロミニの4気筒660ccエンジンを1.1L4気筒NAとし、ボディサイズを拡大したモデルである。
パジェロJr.は初代パジェロミニに対しキャビンとラゲッジスペースこそそう変わらないものの、トルクの太さにより扱いやすく、燃費も軽自動車としては極悪の初代パジェロミニに対しリーズナブルなものとなり、クルマとしての質感を大幅に向上。パジェロミニほどは売れなかったものの、それなりに販売成績を残した。なおパジェロJr.は1998年に、4ドアが現在のライズ&ロッキー程度のボディサイズとなるパジェロイオを後継車に絶版となった。
■なぜ三菱RV王国は崩壊したのか?
1990年代に登場したモデルに関しては、(3ナンバー車が買いやすくなった時期にドンピシャのタイミングで登場した初代ディアマンテなどの乗用車を含め)三菱自動車の商品企画力は時代をよく見たものだったと思う。
しかし、2000年代以降のRV系については、そうではなかった。
「2代目までのパジェロの成功体験から抜けられなかった」とよく言われるように、時代の変化に対応できなかった3代目以降のパジェロのような硬直化を感じたり、トヨタに対する挑戦者であった三菱自動車のモデルに求められていた「個性」がいずれも薄く、埋もれてしまったモデルが多かった。
それでも初代アウトランダー(2005年)やデリカD:5(2007年)、プラグインハイブリッドのアウトランダーPHEVといった魅力あるモデルもあった。
だが、2000年と2004年のリコール隠しや2016年の燃費不正といった不祥事により三菱自動車のブランドイメージは急降下し、近年成功した三菱車はRV系を含めデリカD:5くらいで、登場から8年が経った今でも目が覚めるくらい素晴らしいクルマであるアウトランダーPHEVですら伸び悩むのも無理もない。
■まとめ
現在再建中の三菱自動車であるが、最近登場したエクリプスクロスPHEVは、(価格はともかく)車重が2トン近いにも関わらず三菱自動車の武器である四輪統合コントロールなどにより、運転して楽しくかつ快適と、やはり技術力のあるメーカーなのを実感する。
それだけに、今後日産ルノー三菱自動車アライアンスにおいて、唯一無二の個性を発揮してほしい。
今後、三菱自動車が主導するRV関係は、プラグインハイブリッド車が中心になると思われるが、東南アジア諸国で人気のエキスパンダーの日本導入なども含め、加藤新社長の大胆な舵取りによる復活を大いに期待したいところだ。