圧倒的王者ホンダN-BOX ライバルを蹴散らし続ける絶対優位点とは

■2代目になってさらに洗練された

 そして2017年に発売された2代目の現行型は、先代型を踏襲した上で、さらに機能を洗練させた。

 プラットフォームを刷新して走行安定性と乗り心地を向上させ、操舵感の曖昧さも払拭した。内装ではインパネ周辺が上質になり、シートの柔軟性も増している。このシートも乗り心地に優れた効果を与えた。

広大な室内を持つN-BOX。軽自動車のため4人乗りだが、室内空間の広さは圧巻
広大な室内を持つN-BOX。軽自動車のため4人乗りだが、室内空間の広さは圧巻

 装備では衝突被害軽減ブレーキの性能が高まり、車間距離を自動制御しながら追従走行できるクルーズコントロールなどの運転支援機能も加えた。現行型は売れ筋路線の先代型に、新たな魅力を上乗せして、売れ行きをますます伸ばした。

 そしてN-BOXの販売推移を見ると、好調に売れる定番のパターンに沿っている。2012年の届け出台数は21万台だが、2013年には23.5万台に増え、2代目にフルモデルチェンジされた後、2018年は24万台、2019年には25万台を超えている。

 一般的にクルマの売れ行きは、登場した直後が最も多いが、N-BOXは時間の経過とともに少しずつ増えている。

 これは街中でN-BOXを見かけた人達が魅力を感じて買うことにより、市場へ着実に浸透している証だ。入念に足場を固めるように売れているから、この後に時間が経過しても、売れ行きが下がりにくい。ワゴンRなども同じような売れ方を経て市場に根付いた。

 N-BOXでは潜在的なユーザーが多いことも良い影響を与えた。ホンダには、フィット、フリード、ステップワゴンなどを所有するファミリーユーザーが多いから、子育てを終えて小さなクルマに乗り替えるニーズも高い。しかもホンダの軽乗用車は、実質的にN-BOX/N-WGN/N-ONEに限られるため、小さなクルマに乗り替える需要がN-BOXに集中した。現行型の人気に関しては、先代型が好調に売れた影響も大きい。先代型から現行型に乗り替える需要が売れ行きを押し上げた。

登場後3年半が経過しても売れまくっている現行型N-BOX。その要因は商品力だけでなく、さまざまな好条件が重なり合った結果だし、(フィットなど)小型車の販売が伸び悩むなどの弊害もある
登場後3年半が経過しても売れまくっている現行型N-BOX。その要因は商品力だけでなく、さまざまな好条件が重なり合った結果だし、(フィットなど)小型車の販売が伸び悩むなどの弊害もある

 その代わり、N-BOXがほかのホンダ車の売れ行きに与えた影響も小さくない。フィットの登録台数はヤリスを下まわり、フリードもシエンタにおよばない。N-BOXは、好調に売れながら、ほかのホンダ車の需要を吸収しているわけだ。その結果、N-BOXは、2020年に国内で販売されたホンダ車の32%を占めている。

 1車種がメーカー全体の30%を超えるとリスクも高まる。なんらかの理由でN-BOXの生産が滞ると、国内に供給されるホンダ車が大幅に減るからだ。ホンダの販売店からは「N-BOXにはあまり力を入れず、フィット、フリード、ステップワゴン、ヴェゼルを売るように指示されている」という話も聞かれる。

【画像ギャラリー】激戦!! 首位を快走するN-BOX撮りおろし写真と強力ライバルたち

■続々と登場する各社のライバルたち

 一方ライバル車のタント、スペーシア、ルークス、eKスペース&eKクロススペースがN-BOXのように売れない理由は何か。

 まず挙げられるのは商品力だ。タントは現行型になり、先代型の欠点だった後席の座り心地と着座姿勢、走行安定性、操舵感などを改善した。助手席には長い前後スライド機能を加え、車内の移動も容易にしている。

元祖スーパーハイトワゴンのダイハツタント。現行型は4代目にあたり、2019年に登場している。N-BOXと比べても商品内容はほぼ変わらないはずだが…
元祖スーパーハイトワゴンのダイハツタント。現行型は4代目にあたり、2019年に登場している。N-BOXと比べても商品内容はほぼ変わらないはずだが…

 タントは以前から左側のピラー(柱)をスライドドアに内蔵させ、前後のドアを両方ともに開くと開口幅が1490mmに達した。新型ではワイドな開口幅を生かして助手席側からベビーカーと一緒に車内へ入り、後席のチャイルドシートに座らせる。この後、降車しないで運転席に座れるように、運転席にも長いスライド機能を採用した。車内の移動性と、導線に力を入れたわけだ。

 しかし現行タントは全般的に地味だ。

 機能的にはN-BOXに比べて大きく劣る部分はなく、ワイドに開く左側のスライドドア、多彩なシートアレンジなどはタントの優位点になる。それでも売れ行きは伸び悩み「乗ると良いクルマ」になっている。

 またダイハツでは、2016年に登場したムーヴキャンバスが売れ行きを伸ばしている。全高が1700mm以下の軽自動車だが、後席側のドアはタントと同様のスライド式で、外観も上質だ。販売店によると「ムーヴキャンバスは、スライドドアは欲しいが、タントほどの広い室内空間は不要なお客様に好評」という。

 全国軽自動車協会連合会の販売統計では、ムーヴキャンバスの届け出台数はムーヴに含まれるが、別々に算出すると約半数を占める。そうなるとコロナ禍の影響を受ける前の2019年には、1か月平均で約5000台のムーヴキャンバスが届け出されていた。この売れ行きがタントの需要を吸収した面もある。このほかダイハツにはSUV風のタフトも用意され、複数の軽自動車によってタントの需要が分散された。

 スペーシアもタントと同等の台数を届け出した。車両重量はN-BOXやタントよりも少し軽く、マイルドハイブリッドも搭載する。アイドリングストップの再始動音も静かだ。エアコンの冷気を後席に送るスリムサーキュレーターも以前から採用されて快適性が高く、メカニズムや装備を充実させた。ボディのバリエーションにはスペーシアギアも設定され、標準ボディ、カスタムと併せて3種類の選択肢がある。それでも売れ行きはN-BOXにかなわない。

 このほかルークス/eKスペース&eKクロススペースは、衝突被害軽減ブレーキを充実させた。2台先の車両を検知して警報する機能もある。全車速追従型クルーズコントロールを含んだ運転支援機能のプロパイロットも採用したが、売れ行きは伸びない。

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