そんなに手放し運転したいですか?【自律自動運転の未来 第4回】

■そもそも「自動運転」の目的って…なに?

 こうして、いよいよ日本の交通社会にデビューした自動運転車ですが、そもそも自動運転の目的とは何でしょうか? 手放し運転をすることが目的なのでしょうか?

 はっきりと申し上げておきたいのは、「安心・安全な交通社会の実現」こそが自動運転を世に送り出した目的であり、手放し運転はあくまでも副次的効果のひとつで、目的ではないということです。

 加えて、事故ゼロ社会の実現と共に、最終的には誰もが移動の自由を手にするために自動運転の活用が期待されています。繰り返しますが、たとえ法律で認められていようとも、手放し運転をするためだけの自動運転技術ではありません。

■ステアリングから手を放して何をするのか

 では、「手を放せること」をいかに解釈すべきかといえば、「ステアリングから手が放せるくらい精度の高い運転支援が受けられる」、これに尽きます。そして、運転支援によって得られた精神的・身体的なゆとりを自車周囲の安全確認に使い、自分なりの安心・安全な交通社会を実現する。これこそが今日現在、Honda SENSING Eliteから誕生した乗用車の自動化レベル3技術との正しい付き合い方であると筆者は考えています。

 それでもなお、安全マージンにゆとりがあると感じる場合には、ドライバーの責任においてディスプレイに表示される映像(車内エンターテイメント)を楽しむなど、運転操作以外のサブタスクを採り入れて、移動の質を高めていけば良いでしょう。

自動運転の話になると、つねに話題になる「手放し運転」。「手放しで運転できるのか」という話が先行するなかで、「なんのために【手を放してもいい状況】を作るのか」のほうが重要
自動運転の話になると、つねに話題になる「手放し運転」。「手放しで運転できるのか」という話が先行するなかで、「なんのために【手を放してもいい状況】を作るのか」のほうが重要

 ただ、こうした移動の質向上を生まれたばかりの(≒この先、機能限界の拡張が望める)レベル3技術に求めるのは次の理由から少々難しいと考えています。

 それは「運転再開に対するドライバーの対処」です。そもそも現存する自動化レベル1~3までの機能を使用した運転環境において、TOR(Take Over Request/システムからの運転再開呼びかけ)があった場合には、ドライバーはいつでもそれに応答し自らの運転操作を再開しなければならないと定められています。

 レベル3技術の国際基準では「応答に10秒以上の猶予があること」と具体的に示されていますが、例えばディスプレイに映画などストーリー性のある(≒のめり込みやすい)動画を映し出し、エンターテイメント機能に没頭しているドライバーがTORの発報を受け10秒以内に自車周囲の状況を目視で確認し、正しい運転操作が再開できるでしょうか?

■「移動の質」向上にはまだまだ時期尚早?

 筆者は現Daimler Truck AG傘下のFreightliner Trucksが開発した大型トラックの自動運転実験車「Inspiration Truck」のステアリングを(米)ネバダ州にある高速道路で握り、レベル3技術相当の自動走行状態とTORを同時に体験しました。

Freightliner Trucksの実験車両であるInspiration Truck。運転席をよく見ると、ドライバーが両手でタブレットを操作しています。この状態で、クルマから「運転操作に戻ってください」という呼びかけ(TOR)を受けて、すぐ戻れるかどうかがポイント
Freightliner Trucksの実験車両であるInspiration Truck。運転席をよく見ると、ドライバーが両手でタブレットを操作しています。この状態で、クルマから「運転操作に戻ってください」という呼びかけ(TOR)を受けて、すぐ戻れるかどうかがポイント

 システムに守られた運転環境から、突然TORは始まります。実際には定められたODD(Operational Design Domain/運行設計領域)から外れることをシステムが予想し、猶予をもってTORが発報されたわけですが、TORの最中はディスプレイ表示と警報ブザーによってカウントダウンが行なわれ、一刻も早い運転再開が促される(急かされる?)ことから、冷静さを保ち自車周囲の安全確認を行なうには、普段感じることのない緊張を強いられます。

「慣れの問題ですよ」と同乗していただいたFreightliner Trucksの技術者は穏やかに言いますが、それならば筆者は手放しせずに、ステアリングに手を添えてリラックスした状態で、いつものミラーと目視による安全確認を一定時間ごとに繰り返しながら運転していたほうが良いな……、こんな感想を持ちました。

 以上の経験から、「移動の質」向上は、現在の自車が搭載する自律センサーだけを頼りにする乗用車の自動化レベル3技術に求めるのは時期尚早だと考えています。

 この領域はむしろ、路車間や車々間通信、さらには管制情報処理システムなどインフラ整備が前提となったMaaS(Mobility as a Service/サービスとしての移動体)から望むものであり、同時に自動化レベル4技術以上で実現する世界です。

 さて次回は、Honda SENSING Eliteを実装したレジェンドの公道試乗レポートをお届する予定です。手放しせずになにをするのか? ホンダ渾身の自動化レベル3技術は? 2017年にテストコースで試乗したプロトタイプからの進化ポイントなどを踏まえて報告します!

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