電気自動車、オートパイロット……先進的なイメージで話題を振りまく、米国の新興メーカーがテスラだ。そのチャレンジングな姿勢は歓迎したいところだが、いっぽうで、これまでのテスラ車で最も安価な「モデル3」の生産が遅れに遅れるなど、不透明な部分も多い。今後、テスラは本当の意味での“自動車メーカー”としてユーザーを満足させる製品・体制を作れるのか?
文:国沢光宏
ベストカー2018年5月26日号
米国でも報じられる厳しい現状
最近、「テスラの状況は極めて厳しい」というニュースがアメリカで数多く流れている。
例えば、グーグルで「テスラ経営危機」と検索すると、いっくらでも出てくる。見出しを並べてみれば「三重苦。経営危機に陥る」、「潜在的破綻危機」、「迫り来る資金ショートの危機」などなど……。数字を見ても普通ならとっくにギブアップしてるレベル。なにしろ商品を作れないのだった。
モデル3は40万台の予約を受けているという。年間24万台作って2年近い。なのに、直近の生産ペースは公称で週に2000台といわれている。年間10万台です。
ただ、米ブルームバーグ等のニュースだと、2018年1月1日〜4月1日の3カ月間の生産は1190台とある。テスラという企業、いろんな情報を隠すため、ナニが本当かまったくわからない。私は信用していません。
生産トラブルの原因と予約金2700万円の怪
ちなみに、モデル3の生産トラブル、工場のロボット化が原因といわれている。イーロン・マスクは車体組み立てに溶接工程を入れたがらず、溶接ロボットをすべてなくした。
されど、モデル3のような生産台数だと溶接が必要。かくして再度ロボット入れたものの、上手く動かないのだという。ソフト上のトラブルならロボットメーカーに相談すればなんとかなる。もしかしたら車体設計の問題か?
いずれにしろ、モデル3を作れなければお金も入ってこない。報道によれば今や激しいイキオイでキャッシュフロー(運転資金を含む)が消えていっているという。
モデル3の予約金すら使い込んでいる状況か? もはや見境なしに前金を取ろうとしており、新規開発のスポーツカー「ファウンダーズ・シリーズ・ロードスター」の予約金など25万ドル(約2700万円)。完全なる自転車操業に陥ってるように見える。
なのに、株価は堅調だ。高値の385ドルからは落ちたものの、未だに300ドル台をキープ。経営危機といわれてたのに、時価総額510億ドルと、GMの540億ドルと比べたって遜色なし。
参考までに書いておくと、トヨタの時価総額、およそ240億ドル。金額ベースでいえば健全経営してるトヨタの2倍の規模の企業なのである。
なぜ、これほど人気なのか? こらもう簡単。イーロン・マスクのキャラクターです。今やお金が余っている人たちなんぞいっくらでもいる。
そういった人たちがイーロン・マスクの人生観に共感し、株を支えているのだった。興味深いことにお金あってアタマのいい人ほどテスラを好む。
私のようなアタマの悪い常人には、車も怪しいし、経営も厳しいとしか思えない。自動車業界の七不思議だ。
テスラの自動車ビジネスは厳しい?
今後どうなるか? 自動車ビジネスは難しいと考えます。モデルSやモデルXといった1000万円超えの車を買う人って鷹揚。多少の不便さなど気にしない。
されど、モデル3の価格帯になると普通の人が多くなる。ユーザーをフォローしていくの、難しいんじゃなかろうか。なにせ日本でいえば現在ディーラーを持っていない。それでやっていけるのだろうか?
当然のごとくモデル3のライバルは今後多数出てくるだろうし、テスラの生命線である高価格帯もポルシェなどが参入してくる。
加えてテスラの収益源になっているZEVのクレジット(アメリカの排ガス規制に対応できていないトヨタやホンダなどがテスラに大金払って電気自動車の販売枠を買っている)も減っていく。向かい風はモデル3の生産だけにかぎらない。
以上、私からすればケンシロウから「経絡秘孔を突いた!」と宣言されたようなモノだと思っているが、まだまだ「あべし!」になっていません。
逆に問題ないと思っているから株価も維持できている。考えてみたらテスラと関係ない人からすれば、どうなっても影響なし。
モデル3の予約金15万円を払った人で、イーロン・マスクを信じていないなら、たまに納期のメドを問い合わせたらいい。
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