紀州のドン・ファンと美女とクルマの裏事情【第2回】

■「風と共に去りぬ」ではなく

 ドン・ファンの今の家の内部を西洋風に改装したのはAさんだ。外側は2階建ての純日本風家屋であるが、大金持ちの家としてはつましい。しかし、内部は床暖房もされてサウナもある。ゲスト用の風呂は20畳ほどもあり、ジャグジーも付いていた。リビング脇にはオープンキッチンがあり、オール電化されていた。

 ドン・ファンはAさんに惚れていたけれど、喧嘩は絶えなかった。そんなAさんはドン・ファンのクレジットカードを使うなどして、密かに財産を溜め続けたという。一説によると2億円ほどだったというから、浮世離れしている。そして「わたし専用のベンツを買って」とおねだりしたと、野崎氏は語った。

 そしてなんと、そのベンツが納車された日に、運転席に座ったAさんは「さよなら」と言い放って、ベンツと共にドン・ファンの元から走り去ったというのだ。「風と共に去りぬ」をもじって「ベンツと共に去りぬ」。地元では有名な逸話である。

■早貴とAさんの対決

 ベンツの納車に合わせて、Aさんは衣服などを知人に送って準備をしていた。Aさんが社長に三下り半をつきつけて出ていったというのが真相のようだ。

「Aと復縁はできないかな」

 出て行ったあとも、社長は身近な者に、なんとかAさんと復縁したいと相談していた。ことあるごとに社長はAさんのことを懐かしんでいた。それでいて、他の女も物色するのが社長のクセだ。

 愛犬もAさんがクリスマスイブにプレゼントとしてねだって買ってもらったもので、「イブ」と名付けられた。

 イブが急死した後に、イブの葬儀の知らせをAさんへ伝えたものの、ナシのつぶてだった。社長の通夜・葬儀にも顔を出さなかったAさんだったが、2018年8月になって田辺市のドン・ファン宅の行くとの連絡が、知人を介してあったのである。

 その時に乗ってきたのは(京都ナンバーに変えられていたが)あの「去りぬ」の白いベンツだった。2000万円だとドン・ファンは生前言っていたが、真相は分からない。

前妻のAさんがドン・ファンの死後に乗り付けたクルマ。メルセデスベンツ2代目CLS63AMG(前期型)のようだ。型式が合っていれば車両価格は1343万円。オプションや税金を含めれば支払い総額は約2000万円に近づく
前妻のAさんがドン・ファンの死後に乗り付けたクルマ。メルセデスベンツ2代目CLS63AMG(前期型)のようだ。型式が合っていれば車両価格は1343万円。オプションや税金を含めれば支払い総額は約2000万円に近づく

 キッチンに残してあった自分の食器を引き取るのと、ドン・ファンとイブの霊前に手を合わせるというのがAさんの表向きの目的だったが、私は早貴被告と面と向かって会うのが一番の狙いだったと思っている。

「私が殺さなかったドン・ファンを、結婚後、わずかな期間で殺した女の顔を見たかった」

 想像ではあるが、間違っていないと思う。

 約1時間弱の訪問であった。後日、早貴被告にその時の“対決”の模様を訊いた。

「対決でもなんでもなかったですよ。仏壇に手を合わせてもらって、それからキッチンの後ろの棚から食器を選んでいました。和気あいあいというワケではないですが、注意も意見もされなかったし……」

 早貴被告はわたしにそう語っていたが、見えない火花が散っていたのも分からない感性なのが、彼女の特徴だ。

 次回は、早貴被告の運転テクニックや素顔に触れる。

(第3回へ続く)

本稿を執筆したノンフィクションライター、吉田氏がゴーストライターを務めた書籍。『紀州のドン・ファン 美女4000人に30億円を貢いだ男 (講談社+α文庫)』
本稿を執筆したノンフィクションライター、吉田氏がゴーストライターを務めた書籍。『紀州のドン・ファン 美女4000人に30億円を貢いだ男 (講談社+α文庫)』

【秘蔵写真も盛りだくさん】「紀州のドン・ファンと美女とクルマの裏事情」第1回はこちら

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