覚えておけば命が助かる!! 車内脱出! クルマの窓は「端」を割るべし

■水深10cm程度ですでに危険サイン

クルマが普通に走行できる水位は深さ10cm程度まで。水位がさらに上昇するとエンジンが停止し、最悪の場合電気系統がストップする(Adobe Stock@Андрей К)
クルマが普通に走行できる水位は深さ10cm程度まで。水位がさらに上昇するとエンジンが停止し、最悪の場合電気系統がストップする(Adobe Stock@Андрей К)

 車内から脱出する決断は、脱出後の行動を考慮してすべきである。当然ながら車内から脱出した後は冠水した道路を徒歩で歩くことになる。訓練を受けていない普通の人が急流に耐えて徒歩で移動できるのは膝から下の水位までである。ゆえに自動車の周囲の水位が膝より高くなる前にドアを開けて脱出してしまうことが判断基準となるだろう。

 膝の高さ、水深30cmは自動車の機能面でも共通する基準である。JAFは、普通の乗用車は水深30cm程度の道を時速30kmで走行した場合、巻き上げる水がエンジンルームに入りエンジンが停止するおそれがある。水深60cmでは10km/hでしばらく走ることができるが、やがてエンジンが止まると警告している。JAFが示す脱出の目安は以下のとおりだ。

乗用車が冠水した道路を問題なく走行できる深さは、車の床面に水がつかない水深10cm程度まで。
水深30cmを超えるとエンジンが停止するので車から脱出する。
水深50cmを超えると電力が供給されなくなりパワーウインドーも作動しなくなり、車内に閉じ込められ非常に危険な状態となる。

 車体が水に浸かり車内への浸水が始まったならば、車のドアが開く間に脱出してしまうか、それが出来なければエンジンが停止し、電力が供給されなくなる前にパワーウインドーを全開にしておくなど電動式のものは動作を完了しておく。

 水位が膝の高さを超えてしまう前に窓から脱出することが望ましいが、既に窓の高さにまで水位が達している場合は、車外の水を車に入れて車内外の水圧の差を小さくしてドアを開けて脱出する。パワーウインドーが動かなくなった場合に備え、側面ガラスを叩き割ることができるようにガラス破砕工具を必ず手の届く場所に備えておくことが重要だ。

 車内に浸水した場合、早期に脱出することは低体温による影響の面でも重要だ。車内の水位が上昇するまで待っていては身体が冷え切ってしまう。

■低体温症のリスク

 人は深部の体温は37℃程度に維持している恒温動物である。細胞が代謝を活発に行い、なおかつ細胞が破壊されるおそれがないのがこの温度だ。体表面では環境の影響を受けるため1℃前後低くなるので普通に体温を計る時の平熱は36℃前後となる。低体温症とは深部体温が35℃以下になった状態である。体温の低下が著しいほど症状は重症となり、呼吸の停止や致死性の不整脈が出現するなど生命に危険が及ぶようになる。

 特に高齢者や糖尿病、循環器疾患などの基礎疾患がある人は体温調節機能が弱まっているため、低体温症を発症しやすいリスクがある。身体が冷える前に避難するためにも早期脱出の決断は重要である。

■自動車側面ガラスの破壊方法

クルマの側面ガラスは設計上フロントガラスよりも割れやすい(Adobe Stock@Maryia)
クルマの側面ガラスは設計上フロントガラスよりも割れやすい(Adobe Stock@Maryia)

 「自動車側面ガラスを車内から破壊する方法」(図3)のとおり、乗用車のフロントガラスとリアガラスは走行時に異物が車内に飛び込んだり、衝突時に乗員が車外に飛び出さぬよう、容易に割れない構造となっている。

 ドアが開かなくなった時に脱出口として利用できるのは側面ガラスだ。側面ガラスの中央部分は乗員保護のため、衝撃を受けた時に撓み(たわみ)容易に割れない構造になっているが、窓枠に近い角は撓まないため、1点で衝撃を与えると容易に割れる構造になっている。割れたガラスの破片も粒状になり危害を与えにくく加工されている。

図3:自動車側面ガラスを車内から破壊する方法(筆者作成)
図3:自動車側面ガラスを車内から破壊する方法(筆者作成)
図4:自動車側面ガラスを車外から破壊する方法(筆者作成)
図4:自動車側面ガラスを車外から破壊する方法(筆者作成)

 最近のパチンコ店には車内に残されている子供が暑さや寒さにより危険な状態にある場合、店の判断により自動車の側面ガラスを割り子供を救出するようになった。

 「自動車側面ガラスを車外から破壊する方法」(図4)のとおり、車外から側面ガラスを割り、乗員を救出する際は、ガラスの破片の飛散が最少になるように図のようにガムテープを貼り、側面ガラスのドアロックを解除できる部分のみを割ることに努める。ドアを開けられる状態であれば、ドアロックを解除する手のみが入れば充分であり、破壊は常に目的に沿って危害を与えず時間もかけず、必要最少に留めるように配慮すべきだ。

筆者:照井資規
 東日本大震災(2011年3月11日)発災時、陸上自衛隊の医療職の幹部である「衛生官」であり、岩手駐屯地、第9戦車大隊の医療部隊の隊長である衛生小隊長であったため、発災直後に出動した災害派遣時にて津波災害に被災した自動車の様相を数多く目にした。その翌年、ITLS (International Trauma Life Support) 国際標準外傷救護初療教育プログラムAccess (交通事故救出救助研修)インストラクターとなる。本記事はその内容に準拠している。

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